第2章 母
たらふく食った甘露寺が満足した所で会計を済ませて店を出た。
会計はやっぱり俺が多めに出してやろうと思ったが、葉月は「だめです!」と言って聞かなかった。
しょうがねェ、だったらまた今度一緒に出掛けた時に好きなモンでも買ってやろう。
『あらまぁこの子ったら。頑固でごめんなさいねぇ』
『いや、大丈夫です。そういう所も含めて好いて、ます…ので』
こんな所で何言ってんだ俺は…
『ふふふ、ありがとうございます。不死川様、葉月の事、よろしくお願いしますね』
『はい』
葉月を託され俺が返事をすると、女将さんは柔らかく微笑んだ。
葉月に向けた微笑みは、特別慈愛に満ちていて、まるで本当の母と娘のようだ。
女将さんの温かな笑顔に、葉月も嬉しそうに微笑んだ。
店の前で伊黒と甘露寺を見送ってから、葉月を家に送るため俺達も歩き出す。
帰るのが俺の屋敷でないのが少々悲しいが。
『一緒に住むかァ』なんて言ったが、いきなりできるわけもなく。
『いきなり一緒に住むのは緊張してしまうので、私がちょこちょこ泊まりに行く、なんてどうでしょう?』
という提案をされた。
緊張するか…まぁそうだな。
お互いまだ知らない事の方が多い。
知り合って1年も2年も経ってるわけじゃねェ。
その辺は、これから少しずつ知っていきゃいい。
それに、俺の所に来るとなると、今まで住んでいた家を出る事になる。
亡くなった母親とずっと住んでた家だ。
思い出だってあるだろう。
空き家にして廃墟と化してしまうのは心苦しい。
女将さんに相談すると、『貸家にしたらどうかしら?』という事で、住んでくれそうな人を探してくれるそうだ。
さすがああいう店をやってるだけあって、顔が広いらしい。
有難い、もう女将さんに足向けて寝られねェな。
てな訳で、今はその人が見つかるまで俺達の慣らし期間ってわけだ。