第2章 母
暫くすると、仕事を終わらせた葉月が俺達の席へとやって来た。
座るよう促すと、葉月は素直に俺の隣に座る。
「お疲れェ」
労いの言葉と共に頭を撫でてやると、葉月は薄ら頬を染めて嬉しそうに笑った。
「葉月さんお仕事お疲れ様!この桜餅とっても美味しいわ!さっき食べた白玉あんみつもね、白玉がもちもちしててとっても美味しかったの!」
「ありがとうございます!あとでご主人に言っておきますね。どうぞたくさん食べてくださいね!あ、伊黒さんは召し上がらないんですか?」
葉月がそう聞くと、伊黒は少々機嫌が悪そうに顔をしかめた。
「何度言わせれば気が済む。俺は今腹がいっぱいなんだ。貴様、俺に文句があるのか?」
「ぇええ⁈あの…それは大変失礼しました。…ごめんなさい」
…いや葉月は今来たとこだろォ。
分かるわけがねェ。
こいつホント甘露寺以外に興味がねェらしい。
本気で機嫌悪そうにしやがって…
って俺もあまり人の事言えねェがな。
ただ葉月ぐれェは多少気ィ遣ってやって欲しい…
見ろ、葉月が怒られた子供みたいにしょんぼりしちまったじゃねェか。
甘露寺は急に不機嫌になった伊黒にオロオロしてやがるし…
「オィ、伊黒ォ」
少しキツめに言ってやると、伊黒はバツの悪そうな顔をする。
「あー…、別に怒っているわけではない。悪かった。……お勤めご苦労」
伊黒がそう言うと、曇っていた葉月の顔がぱぁっと明るくなった。
「はい!」
葉月に笑顔を向けられた伊黒は、黙ってプィッとそっぽを向いた。
やりゃァ出来るじゃねェか。
そして、初めて見た素直な伊黒に面白さすら感じてしまう。
言ったら絶対怒るから言わねェが。