第2章 母
そして今に至るわけだが。
それにしても良く食うなァ甘露寺は。
細っせェのにどこ入ってくんだろうなァ。
俺の見ている目の前で、甘露寺は机の上が埋まるほど置かれた甘味を片っ端から平らげて行く。
見ていて気持ちのいい食いっぷりだ。
清々しさすら感じられる。
そんな甘露寺とは反対に、隣に座る伊黒は目の前の甘味に全く手をつけようとしねェ。
ホント食わねェんだよな伊黒は。
ダメ元で伊黒にも促してみるが、
「伊黒はいらねェのかァ?」
「さっきも言ったが、腹がいっぱいでな。今回は俺は遠慮しておく」
これじゃァ礼の意味があまり無い気がするが、腹がいっぱいなら無理にすすめるわけにもいかねェし…
「なら、また別の機会に飯でも奢るかァ」
「不死川、大丈夫だ。俺にそんなに気を遣うな」
「いいのかァ?」
「あぁ、いいんだ。俺はここにいられるだけで、満足だからな」
そう言って、甘味をモリモリ頬張る甘露寺を眺めていた。
アァ…、そういう事かい。
伊黒がそれでいいってんなら、良しとするかァ。
それにしても、コイツこんな顔出来んだなァ。
甘露寺を見つめる伊黒のその目はひどく穏やかで、普段のコイツからは想像できないほど優しげだった。
好き、なんだろうなァ、きっと。
聞いた事はねェが、今の伊黒を見れば、聞かなくても分かる。
なんだったら俺がここまでになれたお返しに、今度は伊黒に協力してやるのはどうかとも思ったが…
それはなんだか憚られた。
何となくだが、そういうのはコイツは望んでねェ気がする。
だったら俺は、密かに見守ってやるとしよう。
友人の、ささやかな幸せを。