第6章 白詰草の花言葉
「柚葉ちゃん、思い切りましたよね。ちょっと羨ましいです。私はそういうの、慎重になっちゃうから」
俺が思うに、花里は想いに忠実なんじゃねェかと思う。
葉月はどちらかというと、現状をよく考えてから動く方だ。
俺と暮らすという選択を見送った葉月には、花里の選んだ道が羨ましく映ったのだろう。
こんな話が出たと言う事は、葉月の気持ちの中で何か進展があったんだろうか。
「…お前は、どうなんだ?」
「え…」
なんて聞いてみるが、固まっちまってる。
無理強いはしたくねェ。
葉月がいいと思った時に来てくれりゃあ、それでいい。
「いや、なんでもねェ。ほら着いたぞ」
こんな話をしてる間に、もう見えてきてしまった。
蝶屋敷に。
「葉月、あそこが胡蝶の家だ」
行くぞォ、と葉月に声を掛けてから、蝶屋敷まで歩いて行く。
門の前まであと数歩…、というところでくいっと俺の袖を引き、葉月が立ち止まった。
「葉月?」
「…実弥さん」
見れば、神妙な面持ちで俺を見据える。
「どうした。行きたくねェなら帰るか?」
「そうじゃなくて…」
何か言いたげな眼差しで見つめられ…
俺…なんかしたかァ?
「…入る前に、言っておきたい事があります」
「オォ…」
いつになく真剣な葉月に緊張が走る。
何を言われるのだろうかと身構えた。
「実弥さんに大事なお話があるので、帰ったら…聞いてくれますか?」
帰ったらって事は、今ここじゃァ言えねェ話って事か。
一体どんな話なのか、気になって仕方ねェが…
これくらいは、聞いてもいいだろうか?
「いいと悪ィのどっちかは、聞いてもいいのかァ?」
「うーん、受け取り方によると思いますけど…実弥さんが喜んでくれたら、嬉しいです」
少し考えてから、はにかみながら答える葉月。
もう顔を見れば分かる。
きっと悪い話じゃねェ。
「分かった、楽しみにしてる」
「はい」
嬉しそうに頷く葉月に堪らなくなり、ちゅっとひとつ、口付けを落とした。