第6章 白詰草の花言葉
「じゃあお言葉に甘えて、お願いします」
「オォ甘えとけェ」
「はーい。胡蝶さん、でしたっけ?お家遠いんですか?」
「いや、そんな遠かねェが…はぐれんなよ?」
そう言って手を繋ごうとしたが、生憎手が空いてない為それが出来ない。
「もぉ、そんな子どもじゃないですってば!…でも一応、掴まっときます」
葉月は空いている手の方で、俺の袖をきゅっと掴む。
腕を絡ませるとか、もっと大胆にしてくれても俺は構わないが。
だがそんな控えめな所もコイツらしいと言うか、可愛いらしいので良しとする。
「手ェ離すなよォ」
「はい」と返事をした葉月は、俺を見上げてにこっと笑った。
今は昼が過ぎた頃。
まだ陽は高く、太陽が容赦なく俺たちを照りつける。
そんな逃げられねェ暑さの中こんなん見せられたら…
暑さとか、どっか飛んでったなァ
「よし、行くかァ」
「はい!」
顔を見合わせ微笑み合い、俺達は胡蝶の待つ蝶屋敷へと向かうのだった。
店の入り口からそぉ…っと覗かれていた、とも知らずに…
「なぁ妙、あの二人の祝言はいつだ?」
「さぁ、いつでしょうねぇ?」
「決まったらすぐ教えてくれよ?料理は任せとけ!」
「ふふ、はいはい。さぁあなた、早く厨房戻って下さいな。まだまだ忙しいでしょう?」
「おっといけねぇ!」
「……白無垢、そろそろ用意しておこうかしらね」
俺は両手に重箱をぶら下げ、葉月は片手に重箱と反対の手は俺の袖にしがみ付く。
大荷物を抱えながらゆっくりと歩いていた時、「あ、そうだ実弥さん!」と、葉月が何か思い出したように話し出した。
「昨日大変だったんですよ、柚葉ちゃん」
「オォ、柚葉ちゃんねェ」
「さっき会いませんでした?入り口の所で」
葉月の話によく出てくる柚葉という名前。
さっきの奴がそうだったのか。
どっかで見たことあんなァと思ってたが…
そういや店の中で時々見かけてたなァ、と納得した。
「会ったなァ。んで、何が大変だったんだァ?」
「それが…、昨日の夜家に鬼が来たそうなんです!」
「……マジかよォ」
大変どころの話じゃねェだろォ…