第6章 白詰草の花言葉
「俺達はこれで失礼する」
「オォ、さっさと行っちまえェ」
「では行こう小豆娘」
「もう!いい加減その呼び方やめてください!」
「フッ、冗談だ。行くぞ花里」
プンスカと怒っていたソイツは、冨岡に名前を呼ばれた途端ぽっと顔を赤らめると、満足そうに微笑んだ。
そして「失礼します!」と俺に挨拶をしてから、既に歩き始めた冨岡の後に着いていった。
…今、笑ってなかったか?
アイツあんな顔出来んだなァと少々驚きを覚える。
そういや何処へ行くのか聞かなかった。
まァ俺には関係ねェだろうと思い直し、俺は葉月の待つ店の中へと入った。
「いらっしゃい実弥さん!」
店内に入ると、待ってましたと言わんばかりの笑みで葉月が駆け寄って来た。
俺の癒し。
思わず両手を広げてみるが、すんでのところで葉月は踏み止まる。
この間のようにはいかねェか。
このまま飛び込んでくれても俺はちっとも構わないのだが、今日の葉月は羞恥心の方が勝ったらしい。
「今は…ダメなんですっ」
一生懸命何かと葛藤しているようでそれが可笑しくて可愛らしくもあり、
「また後でなァ」
なんて言って頭を撫でてやると、葉月はふわりと笑うのだった。
店の入り口で何やってんだか。
『煉獄・甘露寺食料食い尽くし事件』から一週間。
店内を見渡せば、何事も無かったかのように店はまわっており、席は満席、店の者も忙しなく動き回っている。
相変わらず繁盛しているようだ。
前回頼んでおいたものは既に箱に入れて準備され、店の机に置かれていた。
重箱十段分。
あの量ならなァ…。
……。
葉月が三、三、四で分けて風呂敷に包む。
そして何故か三段に包んだ方を両手に持って行こうとするので、
「ちょっと待てェ」
「あっ!!」
それを俺が奪い、今度は四、四、二に分け直す。
二段だけ葉月に押し付け、残り四段ずつは俺が両手でそれぞれ持った。
「ほれ行くぞォ」
「ぇえー!待ってください実弥さーん!」
何か言われる前にささっと店を出た俺を慌てて追いかけて来る葉月。
「実弥さんの方が重いじゃないですか」
「んなモンいいんだよォ」
女に重い方を持たせる男が何処にいる。
好きな女なら尚更だ。