第6章 白詰草の花言葉
「オイ、こんなとこで何してやがる」
…なんで声なんか掛けちまったんだ。
アホか俺は。
「…不死川か」
俺に声を掛けられた冨岡は、ゆっくりと此方へ向き直る。
「不死川こそ、ここで何をしているんだ?」
「俺は頼んだモン取りに来たんだよォ」
「そうか」
「……」
「……」
いや終わるなよ!
「俺が先に聞いたんだから俺の質問に答えんのが先だろォがァ!何なんだテメェはよォ!」
「そうだな、すまなかった」
「あぁそうか」と今気付いたとでも言うような口振に俺は少しイラッとする。
調子狂うんだよコイツと話してると…
「人を待っていた」
「ァア?ここの店の奴なのかァ?」
「あぁ。……小豆娘だ」
「小豆洗いみたいに言うんじゃねェ!」
妖怪じゃねェか!
「……名前をど忘れした。小豆の印象が強すぎるんだ」
「…」
覚え方ァ!
名前をド忘れされるソイツが不憫でならなかった。
コイツと話してると突っ込みどころが多過ぎてこっちが疲れる…。
もう聞く事はねェ、そろそろ俺は中へ入ろうと店の取っ手に手を掛けると、急にガラガラッと、力を入れる事なく引き戸が開く。
すると目の前に、女が立っていた。
「うわぁっ!」
ソイツは俺を見るなり素っ頓狂な声を上げた。
誰だァ?コイツ…いや、見たことある顔だ…
誰だったか思い出そうと考え始めた矢先、
「あ、冨岡さん!」
ソイツは俺の後ろに居た冨岡を見つけると、ぱあっと表情を変える。
「花里か。準備は出来たか」
「はい!ここに」
花里、と呼ばれたソイツは背中と手に持った風呂敷を冨岡に掲げてみせる。
「…荷物はそれだけか?」
「はい。本当はまだあったんですけど、昨日のアレで…殆どぼろぼろに…」
「そうか」
昨日のアレ?
なんだかよく分からねェが、冨岡とこの娘がどこかへ一緒に行こうとしているのは分かった。
「不死川」
「な、なんだよ急に」
突然冨岡が俺に話しかけるので、思わず身構える。
「こちらがさっき話した……小豆娘だ」
「小豆洗いみたいに言わないでください!」
いや…
さっきお前名前言ってただろォ…
この娘が益々不憫に思えてきた。