第6章 白詰草の花言葉
うだるような暑さの中、俺は葉月の店へと向かっていた。
まだまだ元気な蝉の声が、この暑さを際立たせる。
今日は非番の俺は、いつもとは違う、常盤色の薄手の麻の着物に黒い帯を締めていた。
隊服よりは風通しが良い分涼しいかと思ったが、俺が今歩いている道は住民が打ち水を撒いており、蒸発した水気を含む空気が肌に張り付いてくる。
そのせいで、じっとりと汗ばむ身体。
だがこれも日の傾く頃には涼しくなっているのだろう。
あるとないでは大違いだ。
仕方ないので今は我慢しておくか。
持っていた手拭いで汗を拭きながら、俺は葉月の店へと足を運んだ。
大した距離でもないが、暑さも加わり多少の疲労感を覚えながら葉月の店までを重い足取りで進んでいく。
葉月に会えば、この疲労感も軽くなるだろうか。
淡い期待を胸に、なんとか足を動かしていく。
やっと葉月の店が見えて来たところで…
俺の足はパタリと動かなくなった。
何故なら、見えてしまったから。
「マジかよォ…」
どうか見間違いであって欲しいと願ってみるが…
あんなんどうやったって見間違う方が難しい。
店の前に佇む1人の男。
半分ずつ柄の違う目立つ羽織り。
何処探したっていねェだろォ。
「帰るかァ…」
踵を返し、元来た道を帰ろうと歩きかけるが…
今日は葉月と一緒に蝶屋敷へ行く事になっている。
数ヶ月前の胡蝶との約束を果たさねばならない時が来たのだ。
すっぽかしたら何を言われるか…
たまったもんじゃねェ。
…
「仕方ねェ、行くかァ…」
仕事以外では絶っっ対ェ顔を会わせたくなかったってのに…
なんでこんな所でアイツに会わなきゃならねェんだよ。
クソが!
と思いながら、俺は仕方なく…
本当に仕方なく!
今一番会いたくねェヤロウと不本意ながら顔を合わせる事になるが、葉月の待つ店へとまた歩き出すのだった。