第5章 大変だ、飯がない!
「私が今言われても困るだろうって考えて言わないでいてくれたんですよね?」
「…まァ、そんなとこだァ」
よく分かってやがる…
見透かされ、少々恥ずかしくなり、プイッとそっぽを向いてしまった。
ガキか俺は。
「ほらやっぱり!私実弥さんのそういう優しい所大好きですよ。でも、実弥さんが悲しい顔してたら、私も悲しくなっちゃいます。だから、遠慮しないで言ってくれたら嬉しいです」
そう言って俺の右手をぎゅっと握る葉月。
言うまで離さねェぞっつうことか。
「…アァ、悪かった。ちゃんと言う」
「はい!」
俺につられて悲しげだった表情が一変、パッと明るく華やかになった葉月。
そういや前にもしたなァこんなやり取り。
一歩引いた俺を葉月が連れ戻しに来たやつ。
俺の事を一番に理解してくれて、寄り添おうとしてくれる。
やっぱり俺にはコイツしかいない、と思った。
「で、何がそんなに悲しかったんですか?実弥さん」
……。
マジで悲しくて来たと思われてたらしい。
どんだけ寂しがり屋なんだよ俺は…
「アー…、いや悲しかねェよ。ただ「あのぉー…、お取り込み中悪いんだけど…」
何処からともなく聞こえて来た至極申し訳なさそうな男の声。
ずっと葉月の隣にいた男だ。
せっかくの葉月との貴重な時間を邪魔され少々苛つき、つい「なんだァ?」とガンを飛ばしてしまい…
「すすすみませんッ…!!」
案の定初めて俺を見た他の一般人と同じ反応。
そんなに怖ェかよ。
「葉月ちゃん、この人ってもしかして…」
「“ 葉月ちゃん“だとォ…?!」
「本当にすみませんんッ…!!」
気安く呼ぶんじゃねェと更にガンを飛ばしてやると、すくみ上がる勢いで怯えていた。
しょうがねェ、このくらいにしといてやるかァ。
「実弥さん怒っちゃダメですっ」
慌てて俺らの間に割って入る葉月。
「この人は不死川実弥さんと言う人で、私の…恋人なんです」
そう言って少し照れながら、でも嬉しそうに隣の男に俺を紹介した。
そのはにかむ笑顔がまた可愛くて、俺のこの苛々も徐々に落ち着いていく。