第5章 大変だ、飯がない!
「葉月!」
「わぁっ!」
駆けて来た勢いでその肩をガッと掴むと、葉月は飛び上がるほど驚いた。
ヤベェ、必死過ぎだろ俺…
「悪ィ、痛かったか?」
「いえ、大丈夫ですよ!どうしたんですか?実弥さん」
荷車を止め此方へ向き直ると、首を傾げて見つめてくる葉月。
……可愛い。
じゃねェだろ。
いや、可愛いけども。
今はそういう事じゃぁなくてだな。
「いや、なんつぅか…」
改めて聞かれると、言葉に詰まる。
衝動的にここまで来てしまった。
俺の知らない男の隣に並ぶ葉月。
仕事だと、分かっちゃいるが…
だが、あんな姿を見せられて、黙っていられるほど俺は出来た男じゃない。
こんな事がある度に、おれはこんな感情を抱くことになるのか…
葉月が隣の男にこれっぽっちも気がねェ事なんかよく分かってる。
それでもいざ目にしてしまうと、抑えられなかった自分に腹が立つ。
こうして葉月の仕事の邪魔をしてしまっている事にも申し訳なく思った。
「…実弥さん?」
「…悪ィ、やっぱなんでもねェ」
こんなみっともねェ感情、ここでぶつけられても困るだろう。
話なら帰ってからでも出来る。
ここは一旦退くとするか。
「葉月、俺もう行くわ。仕事がんば「ダメです実弥さん!」
俺の頑張れを掻き消し声を張り上げた葉月。
心なしか怒っているように見えるが…
「ッ!…おい、なんだァ」
「実弥さん、何か気になったからここに来たんですよね?」
「…なんでもねェよ」
「なんでもなくない!」
「だからなんでもねェから…」
「実弥さんの嘘つき!」
「なんでそうなるんだよ!」
言い返してくる葉月につい俺も声を荒げちまったが、今日の葉月は怯まなかった。
「だって、実弥さんが…そんな顔するから…」
「は?」
何言ってやがる…
「そんな悲しそうな顔の実弥さん置いて、私出発出来ません!」
「っ…!」
マジかァ…
どんな顔してんだよ俺は。
言葉でも、表情でも隠し切れねぇとか…
今日の俺はとことん情けねェ。