第5章 大変だ、飯がない!
牛丼かつ丼親子丼、海老天丼に海鮮丼。
先程まで甘味でいっぱいだった卓上が、今ではこれでもかと言うほどのどんぶり飯で埋め尽くされている。
…俺は一体何屋に来たんだったか?
ちなみに二時間ほどしか提供しない為、出せるのはサッと作れる丼物のみだそうだ。
「うまい!」
「おいしー!」
「うまい!」
「幸せー!」
「うまい!」
「おかわりー!」
「うまい!」
「テメェらいっぺん口閉じろォ!!」
師弟揃って黙って飯も食えねぇんかァ!
確かにこの飯うめぇがなァ!
ここの甘味は絶品だが、俺が今食ってるこのカツとじ丼も、出汁が効いていて、正直今まで食った中でダントツに美味い。
定食屋でもやっていけるのではないかと思うほどだ。
そんな美味い飯をもっと味わって食いてぇのに、目の前のこの二人は見事にそのささやかな願いをぶち壊してくれた。
落ち着いて食わせてくれェ…、頼むから。
「うむ、そうか…。すまない不死川。この海老天丼が美味過ぎてな!しかし不死川、君の言う通りにしたいのは山々なのだが……。口を閉じると飯が食えん!」
「食う時だけ口開けりゃいいだろぉがァ!!」
落ち着けって意味でいっぺん口閉じろっつっただけだろォ!
飯食ってんのに口閉じ続けるバカが何処にいる!
煉獄は「はっ、そうか!」とたった今気が付いたような顔で、再び海老天丼を頬張り始めた。
今度は黙って。
素直な奴だよ煉獄は。
良い意味でも悪い意味でも。
「不死川さんごめんなさい!このご飯がとぉーっても美味しくって!でも私、うるさかったわね…」
斜向かいの甘露寺は、本当に悪かったと思ったのか、先程の勢いが嘘のようにシュン…としてしまった。
あまりにも申し訳なさそうにしているので、こちらの方が悪いのかと思ってしまう。
そんな意気消沈した甘露寺を見て、
「甘露寺、君は何も悪く無い。食べ物の感想を述べるのはむしろ素晴らしい事だ。君が気にする事は何も無い。悪いのは全て不死川だ」
と、首に巻き付いている蛇のように、俺をギロリと睨みつけた。
俺が悪ィんか…