第1章 幸せのカタチ
水篠の歩調に合わせて家までゆっくり歩く。
「いい人だなァ、女将さん」
「はい、とっても。母が亡くなって1人になってしまって困ってた時に、うちで働かないかって言ってくれたんです。すごく良くしてくれて、優しくて、妙さんは私のお母さんみたいな人です」
「私妙さん大好きです」と笑う水篠の笑顔は花が咲いたように可愛らしかった。
思わずドキッとしてしまい、若干焦った。
これは…ヤバイ。
芽生えてしまいそうな感情に蓋をし、話しながら歩いていると、いつの間にか水篠の家に着いていた。
「おはぎ、美味かった」
「茶屋のご主人が心を込めて作っておりますので!」
えっへんとドヤ顔で言う水篠に思わず笑ってしまう。
可愛いとさえ思う。
「また、お店来てくれますか?」
……ア“〜、クソ!
ダメだと思うのに……
コイツの笑顔を見る度にハマっていく自分がいる。
もう大事な奴は作らないと決めたのに…
これ以上一緒にいたら離れる時辛い。
分かってるが…もう無理だ。
もう少し一緒にいたい、また会いたいという感情が溢れて止まらねェ。
さっき無理やり閉じた蓋が、もう完全に開いてしまった。
いつか離れていくのに矛盾してる。
それは分かってる。
だがあと少し、あと少しだけ、隣にいさせてくれ。
「そうだなァ、定期的に甘いモン食わねェと死んじまうんでね」
「ふふっ、そんなに甘いもの好きなんですね」
「似合わねェってか?」
「いいえ!かわいいです!」
「ア“⁈オイ、もっぺん言ってみろ」
「いひゃいでひゅ」
男にかわいいなんか言うもんじゃねェと頬を軽く引っ張る。
もちろん痛くないように。
その証拠に水篠は引っ張られてるのににこにこしていた。
「…また行く」
「はい、待ってますね」
そう言って水篠は柔らかく微笑んだ。
コイツの笑った顔、好きだなァ。
見てると俺のトゲトゲした心がほっこりするような、丸くなっていくようなそんな気がする。
いつまでも見ていたいと、そんな事を思った。