第2章 季節が変えるのは
・
商店街の皆は巌勝とまゆが、どれだけ仲睦まじく引っ付いて歩いていても恋仲とは思っては居ない。まゆの年齢的な事もあるが、小さい頃からなので誰も気にしていないのだ
志津「私ね、前からまゆちゃんと仲良くなりたかったのよ〜。うちの女中がね、まゆちゃんは可愛いって、あまりにも言うから気になっていたの」
まゆ「は、はい…そうですか…」
これは好機と買い物を終えたまゆの手を引っ手繰るように掴み、グイグイと帰り道を進んだ。人気の無い場所に来ると志津は途中立ち止まり、見せ付けるかのように嗚咽を漏らした
志津「おぇっ…ごめんなさいね〜今巌勝さんとのやや子がお腹にいて、悪阻っていうのだけど辛くて。貴方には分からないだろうけど…」
まゆの顔色が青ざめ身体が震えだした。しかし必死に言葉を紡ぎだす
まゆ「そうだったのですね、おめでとうございます。ご無理をなさらずに…」
志津「ありがとう、ごめんなさいね。巌勝さんはまゆちゃんの恋仲の殿方だったのでしょう?私が横取りする形になってしまったのよね」
その瞬間『この人は自分と巌勝の仲を知っていて話しかけた』のだと、まゆの背筋が凍ると同時に憎悪が心の内を支配した
まゆ「何の話でしょうか…私と巌勝お兄様は兄弟の様に育っただけでございます。それは家の兄達もしかり…」
志津「嘘つき!!私、女中達が言っていたのを聞いてしまったのよ。誰も寄り付かない部屋で貴女と巌勝さんが男女の秘事をしている声がしたって!」
まゆの大きな瞳から涙が一粒零れ落ちた。志津はまゆの涙を肯定だと受け取り、更に感情が昂ぶった
志津「兎に角、私の夫に色目なんて使わないでね。アンタ邪魔なのよ、私の夫の事は忘れて早く誰かに嫁ぎなさいな!殿様の配下なら紹介できるから口利き致しましょうか?」
まゆ「要りませぬ。私は日本一の女の侍になるべく稽古に励む身、何処にも嫁ぐ事など無い。それとアノ日以来、貴女の夫と会っては居ない…」
それはまゆの精一杯の抵抗だった。巌勝と一緒に描いた将来の夢、例え別れようが何しようがこれだけは譲れない大事なモノ
・