第5章 回りだした歯車が鋭すぎる
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縁壱は隠にも気遣いが出来る。巌勝が思った通り、非の打ち所が無い男なのだ。巌勝は、その様子を見て『既にまゆは縁壱に惹かれているのではないか』と気が気でない
小峠「有り難きお言葉でございます。しかし、隊士の皆様を支えるのが我々隠の仕事。どうか、お身体を休めていただきとうございます」
縁壱「本当にありがとう。しかし無理はしないでくれ、いつもの事ながら心配だ」
巌勝「これから世話になる」
小峠は縁壱と巌勝に一礼し部屋を整えに行った
二人が帰るなり直ぐ様用意された夕餉を「頂きます」「ご馳走様でした」以外は無言で平らげる。暫しの沈黙の後、巌勝から縁壱に話しかけた
巌勝「縁壱、まゆを泣かせた私を軽蔑するか?」
縁壱「いえ…軽蔑など致しませぬ。しかし兄上はまゆと今後どうなりたいのでしょうか…」
気まずい雰囲気が流れるが、巌勝か戸惑いながら話し始めた
巌勝「私はまゆを愛している。だが…まゆはどうだろうか…ただの辛い記憶になってしまっていると思う…」
縁壱「えぇ、しかし真実と気持ちを伝えなければまゆ自身がいつまでも前に進めませぬ」
縁壱は複雑な想いに、胸がギリギリと痛むのを感じる。しかし『自分なんかよりもまゆを幸せに出来るのではないか…』と、痛みを閉じ込めるかのように、気持ちを抑えて巌勝と話をする
巌勝「わかっている、だが今は時期尚早というもの…いきなり言っても混乱するだけだ」
縁壱「ですがまゆは表に出さなくとも、兄上と居ると身体が強張っております。真実を知らぬが故なのではないでしょうか」
縁壱は、話せるなら早く話して欲しいと願う。まゆの傷が癒えるのならばと
巌勝「そうか…今夜、まゆが帰って来たら話そう」
縁壱「そうしてやってください。きっと一つ痛みが消えますから…」
その後は縁壱が継国の家を出てから今までの事を問われたので、細かに話していた
巌勝「苦労したのだな…」
縁壱「そう…なのですかね…」
墓まで持って行かなければならない秘密、まゆとの初めての口付けの事は伏せて…
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