第3章 ♡そこは狂った愛の底♡ ※ヤンデレ
振り返ると、帰宅したらしい零一が立っていた。
白のシャツに黒のスラックスの義兄は、一度部屋に戻ったのだろう荷物は何も手にしていない。
西日を背にした零一の影は長く伸びて、夢乃を覆い隠す。
(あれ……零一お兄ちゃんて、こんな顔してたっけ…)
今更のように夢乃は気が付いた。
綺麗な顔には変わないが、少年らしさが消え瞳が前よりも細く切れ長になったように思える。
零一も二十二になっていて、立派な青年といった印象だ。
「なんや、今日は綺麗なおべべ着せてもろてるやないの」
「……お雛様だから」
「似おてるなぁ。ほんまのお姫様みたいや」
零一は白い歯を見せて微笑んだ。
「そんで、親戚の子らに遊んでもろた?」
「女の子達と、お人形で遊んだよ」
「ほんまに?女の子だけ?従兄弟の中に男の子だっておるんに、ひと言も話してへんの?」
零一の穏やかな声の奥に潜む冷たい空気に、夢乃はサッと青ざめる。
以前、学校帰りにクラスの男の子と話しているのを、零一に見られたことがあった。
その時、男と仲良くするのは売女と同じことと言われ、お気に入りのお人気を取り上げられたことがある。
以来、零一は夢乃に男子と話すことを禁止していた。