第2章 幕間~紡ぎ歌(胡蝶しのぶ編)
「汐さんの言う通り、私はずっと無理をして笑顔を作ってきました。前に炭治郎君と話した時に、笑っているけれど怒っているんじゃないかと言われたことがあります」
「炭治郎と?」
「はい。あなたが前に彼を喧嘩をした前日の夜です」
しのぶの言葉に、汐は驚きのあまりのけ反った。
「炭治郎君の言う通り、私は怒っている。ずーっと怒っているんですよ。以前少しだけ話しましたね?私には姉がいて、鬼に殺されたということを」
汐が頷くと、しのぶは目を閉じて話し出した。
「私の姉は胡蝶カナエといい、柱の地位に就いていました。私なんかよりもずっと優しく、鬼と仲良くすることを夢見ていました」
「鬼と、仲良く?」
汐が問うと、しのぶは頷いた。
「ええ。自分が死ぬ間際ですら鬼の事を憐れんでいた。鬼は悲しい生き物だと、そう言っていた。まるで炭治郎君のように」
「そうだったの・・・」
しのぶの語る重い話を、汐は拳を握りながら聞いていた。
「でも私は無理だった。人の命を勝手に奪っておいて可哀想?そんな馬鹿な話がありますか。鬼は自分の事しか考えず、本能のままに人を喰らい殺す。勿論、今なら例外がいるということはわかりますが」
しのぶは小さく息をつくと、汐に顔を向けて言った。
「汐さん。私が今までずっと笑顔を作り続けてきたのは、姉カナエが私の笑顔が好きだからと言ってくれたからなんです」
「そうだったのね」
「ええ。それから私は、どんな感情を抱いても笑顔でいるようになった。姉が好きだった笑顔を絶やさないように」
しのぶはそう言って再び笑った。だが、汐はしのぶが泣いているように見えた。