第2章 幕間~紡ぎ歌(胡蝶しのぶ編)
「しのぶさんのお姉さん、カナエさんだっけ?いくらしのぶさんの笑顔が好きだって言っても、しのぶさんが無理をしていい理由にはならないんじゃない?」
「え・・・?」
「あたしがカナエさんなら、自分を傷つけてまで無理してるなら、笑って欲しくなんかない」
汐の容赦ない言葉がしのぶの心に突き刺さり、しのぶの布団の中の拳は微かに震えた。
「今のしのぶさんは、まるでカナエさんの言葉を免罪符にしているみたいで、見ててすごく嫌だ」
汐の子の言葉に、遂にしのぶの何かが切れた。
「あなたに私の何がわかるの!!」
しのぶは体を起こすと、汐を睨みつけた。
「勝手な事ばかり言わないで!!!」
しのぶは胸の中の怒りを全て汐にぶつけるように叫んだ。
汐はしのぶの変化に驚いたが、ふっと笑みを浮かべて言った。
「なんだ、ちゃんとできるじゃない。そういう顔も」
「えっ・・・」
しのぶは面食らい、汐の顔を呆然と見つめた。
「今のしのぶさん、すごく"らしい"顔をしてるわ。偽物の笑顔なんかじゃなく、胡蝶しのぶっていう人間の顔をしてる」
そういう汐の顔は、心の底から安心したような表情だった。
「あたし、正直しのぶさんが怖かった。色んな感情がごちゃ混ぜになった"目"を見て、人の心を忘れたんじゃないかって思った。でもそうじゃなかった。しのぶさんは、ちゃんと人間だった。よかった」
「汐さん・・・」
しのぶは汐の卓越した人間性に、驚きと尊敬、そして畏怖の感情を抱いた。
自分よりも年下のはずなのに、まるで自分よりも永い時を生きてきたように。