第8章 二人の少女<参>
伊黒が素早い動きで移動し、蜜璃を抱えてせり出した部分に飛び上がった。
「甘露寺」
伊黒は蜜璃の顔を見ないまま、口を開いた。
「相手の能力がよくわからないうちは、よく見てよく考えて冷静にいこう」
淡々と話す伊黒だが、その顔には気まずさなのか、汗が浮かんでいる。
「・・・はい」
そんな彼に、蜜璃は恥ずかしさのあまり顔から火が出そうになりながらも、短く返事をした。
それから二人は、何とか頸を斬ろうと斬りかかるものの、建物自体を手足のように動かせる鳴女の術に翻弄されていた。
足場の襖が急に開いたかと思えば、床が突然せり上がり、押しつぶそうとまでしてくる。
何とか回避して斬りかかるも、空間に開いた扉から放り出されたりと、非常に厄介なものだった。
(血鬼術の殺傷能力はそれほどでもないが、煩わしさと厄介さは随一だな!!)
長期戦は避けられないと悟った伊黒は、苦々し気に舌を鳴らすのだった。