第8章 二人の少女<参>
何やら辺りが騒がしい。
誰かの声に頭を揺らさせながらも、汐はゆっくりと目を開けた。
ぼやけた視界が段々とはっきりしてくると、そこには見慣れない天井と、見覚えのある"目"。
「あれ・・・?」
汐が口を動かすと、"目"の主は少しだけ安堵したように息をついた。
「気が付いたか」
その声に、汐の意識は一気に覚醒し目を見開いた。
「あんたまさか、愈史郎さん・・・!?何でここに・・・、それに、その恰好」
「よく動く口だな。本当に鬼の毒を喰らっていたのか?」
愈史郎はそう言うと、持っていた注射器をそっと懐にしまった。
「あれ?あたしどうして・・・」
「どうして生きてるのか?と言いたいのか?」
愈史郎は小さくため息を吐くと、汐が気を失っている間の事を語った。
愈史郎は珠世の命で鬼殺隊員に扮し、隊員の救護及び援護を行っていた。
自身の血鬼術である"眼"の札をあちこちにばらまき、場内の探索を行っていた。
その中で重傷を負った善逸と汐を介抱していた。
善逸のことを聞いて汐は息をのんだが、彼の命に別状はなく、今は他の隊士に連れられて泣きながら城内を移動していると聞いて、安堵の息を漏らした。
「あいつも無事なのね、よかったわ。それで、状況はどうなっているの?」
汐の声がしっかりしていることに、愈史郎は内心驚きを隠せないでいた。
汐の状態は、彼が思うよりもずっと酷かった。
人間なら数秒で死ぬような毒を、あれほど大量に吸い続けていたのにもかかわらず、(珠世の開発したものとはいえ)解毒剤を数本打っただけでここまで状態が回復する汐の治癒力は、愈史郎の想像を遥かに超えていた。
「お前、自分の状況を分かっているのか?先ほどまでいつ死んでもおかしくない状態だったんだぞ?」
「お生憎様。あたしは普通の人間じゃないからね。それはあんたもよくご存じのはずだけれど?」
汐が皮肉を込めて言うと、愈史郎は少し悲しそうに瞳を揺らした。
「兎にも角にも、上弦の弐、参、伍、陸は討ち取られ、残っているのは無惨、上弦の壱、肆の三人だ」
「参・・・、ということは、炭治郎と義勇さんがやったのね」
二人が無事という話を聞いて、汐は心の底から安堵した。だが、無惨をはじめ全員を討ち取るまでは、本当の安寧は訪れない。
汐は改めて胸に決意と殺意を宿すと、ゆっくりと立ち上がった。