第8章 二人の少女<参>
一方そのころ。
上弦の弐、童磨と対峙していたカナヲは、圧倒的な強さに苦戦を強いられていた。
しかし突如乱入してきた伊之助によって、絶体絶命の危機は脱したものの、そこで新たな事実が発覚した。
童磨は、伊之助の母親、琴葉の仇だった。
かつて琴葉と伊之助は彼に保護されていたが、人食い鬼だと知った琴葉は伊之助と共に逃げだすも、逃げきれないと悟った彼女は、伊之助を川に投げ落としその場から逃がしていた。
真実を知った伊之助は激昂し、カナヲと共に戦うも、一向に衰えない童磨の血鬼術に防戦一方だった。
だが、しのぶが体内に仕込んでいた猛毒が童磨に発動し、大幅に弱体化させることに成功。
カナヲは伊之助と協力し、二人は見事家族の仇を討ったのだった。
そんなこととは露知らず。鬼の毒に蝕まれていた汐は、奇妙な夢を見ていた。
真っ暗な空間で、誰かの声が聞こえた。
初めて聞くはずなのに、どこか懐かしい声。
汐が目をゆっくりと開ければ、そこには真っ青な長い髪の女性が一人、こちらを見ていた。
汐はその女性に見覚えがあった。自分と同じ青い髪、ワダツミの子で間違いはないだろう。
心なしか、少しだけ自分と似ている気がした。
「あんたは・・・」
汐が問いかけようと口を開いたとき、女性の目から涙が零れ落ちた。
その姿を見て、流石の汐も焦りだす。
すると、女性は汐を真っ直ぐ見据えながら、ゆっくりと口を開いた。
『お願いします・・・。あの方を、止めてください・・・!』
「え?」
汐は言葉の意味が分からず、素っ頓狂な声を出した。
「あの方って?」
汐が聞き返すと、女性は両手を握りしめながら答えた。
『私の知る全ての事を、お話します。私の名は――』
それから女性が語りだした内容に、汐は呆然と耳を傾けていた。
全ての話を聞いた後、汐は決意を込めた目を彼女に向けた。
「分かった。あなたの願い、必ず叶えるわ」
汐の言葉に、女性は安心したように微笑むと虹色の泡となって飛び散る様に消えていった。
それを見届けた汐の意識も、ゆっくりと薄れていった。