第7章 二人の少女<弐>
「あなたなんか、私の前に現れなければよかったのよ」
絹は身体を崩壊させながらも、汐の背中に向かって言葉を吐きだした。
「あなたがいなければ、私はこんな思いをしなくて済んだのに。全部、全部あなたのせいよ・・・」
絹の頸は地面に落ち、黒ずみながら崩れていく。
「あなたは私に苦しみを持ってきた。全部、全部いらないものだった。私の世界を壊した、あなたが本当に憎い。そして・・・」
――あなたと友達に慣れて嬉しいと思う私自身が、惨めで憎い・・・!
絹はそれだけを呟くと、灰になって静かに消えていった。それと同時に絹の生み出した空間も溶けるように消え去った。
「ごめんね、絹。あんたの事、もう少し早く気づいて止めていたら、こんな風にはならなかったわね。あんたの心を鬼にしたのは、あたし。それは確かね」
汐は刀を鞘にしまうと、顔を下に向けた。
「これでけじめをつけられたなんて、当然思ってない。でも、まだあたしにはまだやるべきことが残ってる。だから、全てが終わるまで――」
――地獄で待ってろ
汐は両目から涙を流しながら、歯を食いしばった。
戦いはまだ終わっていない。ここには無惨と上弦の鬼がまだ残っているはずだ。
「行かなきゃ。まずは炭治郎と義勇さんのところに戻らないと」
汐は顔を上げると、炭治郎達がいるであろう方向に顔を向けた、その時だった。
「ゴフッ・・・!!」
汐の口から、鮮血が霧状になって飛び出し畳を赤く染めた。
慌てて口を押えるが、血は止まらずみるみるうちに手を赤く染めて行く。
(さすがに鬼みたいに、毒の分解は出来ないか・・・)
汐はその場に崩れ落ち、血を吐き出しながら蹲った。
(参ったなあ・・・。あたしは、まだ死ねないのに。流石に二回目の還り咲きは、無理だよね・・・)
薄れゆく意識の中、視界の端に何かが動く気配がした。
仲間か、それとも鬼か。それを考える間もなく、汐の意識は闇の中に沈んでいった。