第6章 二人の少女<壱>
「随分後になってからだけど、あの男は私がやっていたことを突き止めていたの。でも、大事にはしない。その代わりにあなたを裏切るような真似だけはするなって脅されたのよ。馬鹿な男よね!あの時私をどうにかしていれば、あんなことにはならなかったのに!!」
だが、絹が言い切ると同時に汐は斬りかかった。その目には涙と殺意が浮かんでいた。
「馬鹿ね」
絹がそう言った途端、二人の前に巨大な珊瑚の壁が出現した。その刹那、汐の足元から硬質化した海藻が飛び出した。
「今度は歌わせないわよ」
ウタカタを使う暇を与えないためか、壁や天井、床からあらゆる海藻の刃が凄まじい速さで飛び出してきた。
しかし汐は、そのすべてを紙一重で躱し、大きく息を吸った。
痣が発現しているせいか、最初の時とは速度が比べ物にならない。
「あたしを舐め腐ってもらっちゃ、困るのよ!」
――海の呼吸・玖ノ型――
――海神舞(わだつみまい)
汐は壁や天井を縦横無尽に駆けまわりながら、襲い来る海藻を切り刻んだ。その様子を見ていた絹は、微かに顔をしかめた。
だが、汐が息を吸っているのをみて、勝ち誇ったように笑った。
「呼吸を使ったわね、汐ちゃん!!残念だけど、あなたはもう終わりよ!!」
絹は姿を見せないまま、遠距離から汐へ攻撃をし続ける。汐は新しい技で全ての攻撃を叩き落すが、本体が見えないため決定打には至らない。
それどころか、微かに身体に異変を感じていた。