第6章 二人の少女<壱>
「分かる?わからないわよね?私の事を何一つわかっていなかった、鈍臭い汐ちゃんなんかにはね」
「ええ、分かりたくもないわね。そんなクソみたいな事」
汐が吐き捨てるように言うと、絹は目をキラキラさせながら「こわーい」と言った。
「でも、そんな鈍くて頭の悪い汐ちゃんに、ひとつだけ面白いことを教えてあげる。どうせあなたはここで私に殺されるんだもの。冥途の土産ってことで教えてあげるわね」
絹はそう言って両手を広げ、結界を大きくし始めた。
「私を生んだあの女、まあ私の母親と言っていいわね。あいつが死んだの、ただの病気じゃないのよ」
「!?」
汐は顔を強張らせ、絹を睨みつけた。
「私が少しずつ、あの女の食事に毒を混ぜていたの。死なない程度の弱い毒だけどね。そしてそれを看病し、元気になってきたらまた弱らせる。それを繰り返せば、病弱の母親を必死で看護する、健気な娘の舞台の出来上がり」
絹は両手を広げ、素晴らしいでしょと言わんばかりの表情を浮かべた。
「でも、あの女は男と違って多少なりとも頭がよかった。だから私がしてきたことに気づいたの。でも、その時にはもう手遅れだった。声も出ないし身体も動かせない状態だったの。その数時間後、あいつは死んだ。そして、舞台は幼くして母親を亡くした薄幸の少女へと移り変わっていった」
絹の口から飛び出す話に、汐は微かに体を震わせながら聞いていた。鬼の襲撃に関わっていただけでなく、この鬼は自分の母親を殺したのだ。
それも、とても残酷な方法で。
「あの男も村の連中も、あなたも。みんな馬鹿で助かったわ。私のしたことに気づいていないんだもの。まあ、痕跡なんて残らないようにしたんだから、当然。って思っていたんだけれど、いたのよ。一人だけ。私の事に気づいた奴が」
「気づいていたって、まさか・・・」
「そうよ。あなたの父親、あの忌々しい、元鬼狩りの男、大海原玄海よ!!」
絹はその事を思い出したのか、文字通り鬼の形相を浮かべた。