第6章 二人の少女<壱>
汐の顔に発現した痣を見て、絹の瞳が微かに揺れた。
主である無惨からの情報で、痣が発現した鬼狩りは身体能力が飛躍的に上がる事を把握していた。
しかも、汐は人ではなくワダツミの子と言う特殊な存在。ましてや戦闘能力のあるワダツミの子自体が特異点なため、情報がほぼないにも等しかった。
しかし絹の戸惑いは瞬時に消え、口元には歪んだ笑みが浮かんだ。
「裏切った、ですって?」
絹の静かな声に、汐はすっと目を閉じた。
「考えてみればおかしなことばかりだったのよ。元柱であり、大海原家の人間だったおやっさんが、何の対策もしていないはずが無い。それに、群れないはずの鬼が集団で襲ってくるのもおかしい。何か、人為的なものがない限りはね」
汐はそう言った後、ゆっくりと目を開き、殺意を孕んだ視線を絹に向けた。
「鬼を手引きしたのは、あんたね?」
汐の低い声に絹は僅かに怯んだものの、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「だったらなんなの?」
その返答を聞いた汐は、少し悲しそうに目を伏せた。
「あたしにはわからない。あたしと違ってあんたと庄吉おじさんは、正真正銘血の繋がった親子だったはず。おじさんはいつも言ってたわ。絹に寂しい想いをさせてしまって申し訳ないって。本当にあんたの事を愛してたって、あたしでも分かるわ。それなのに・・・!」
汐はこみ上がってくる熱い物を吐き出すように、絹を怒鳴りつけた。だが、そんな汐を見て、絹は口を大きく開けて笑い出した。
「あはははは!!あなたは本当に何もわかっていないのね、汐ちゃん」
絹はひとしきり笑った後、ぞっとするような"目"を汐に向けた。
「あんな気持ち悪い男、父親だなんて呼びたくもない。いつもへらへらして誰かに媚びるだけの卑しい男。あいつと同じ血が流れていると思うと吐き気がしたわ。でも、今は違う。この体にはあの御方の素晴らしい血が流れているの」
絹は恍惚とした表情で、自分の身体を抱きしめながら悶えた。