第5章 無限城<参>
「でも、汐ちゃん。あなただけは違った。あなたは私の思い通りには決してならなかった」
絹は結界中から巨大な珊瑚を出現させると、汐が倒れたであろう場所を容赦なく突き刺した。
「ううん、思い通りにならないどころか、あなたがいると皆私を見てくれなくなった。皆あなたをみて、あなたに笑いかけて、あなたに何もかも与えた!!」
絹の声は怒りと憎しみに満ち、布を引き裂くような悲鳴を上げながら何度も何度も珊瑚を振り下ろした。
「いつの間にか私の周りには私の外見だけを見る連中が集まり、あなたの周りにだけ人が集まるようになった。大して美人でもない、どこにでもいる平凡なあなたの周りに!!」
絹は片手を上げ、血をまき散らすと更に珊瑚の数が増え、あたりに降り注いだ。
「あなたさえ、あなたさえいなければ!!私の舞台は壊れなかったの!!私が主役で私を引き立てる脇役がいる、私だけの舞台は続いていくはずだったの!!それなのに、それなのに!!それなのにいいいいいいい!!!!」
攻撃のあまりの激しさに、珊瑚にはひびが入り、あたりにはもうもうと砂煙が上がった。
やがて少し落ち着いた絹は、汐の死体を確認しようと一旦攻撃をやめた。
「ああ、少しやりすぎちゃったみたい。でも、汐ちゃんが全部悪いのよ。あなたが私の気持ちも知らずに、いつもへらへらと何も考えないで適当に生きているから・・・」
絹は恨みの篭った言葉を漏らすと、砂煙が上がる中汐がいるであろう場所に近づいた。
その時だった。
風を切るような鋭い音と共に、絹の両腕が切断され頸から鮮血が飛び出した。