第5章 無限城<参>
「ねえ、汐ちゃん、聞こえる?」
暗闇の中から絹の声が聞こえ、汐は刀を構えなおし、少し口を開けながら表情を硬くした。
その時だった。
突然汐の死角から何かが飛び出し、その背中を容赦なく穿った。
汐の身体は反動で浮き上がり、口からは血があふれ出す。
「私ね、汐ちゃんにずっと言いたいことがあったの」
汐の身体が天井すれすれまで上がったかと思うと、今度は天井から刃の様に鋭い海藻が飛び出し、汐の全身を薙ぎ左手を吹き飛ばした。
「私ね、ずっとずーっとまえから汐ちゃんの事・・・」
――大っ嫌いだったの
その言葉に汐は目を見開き、喉を締め付けられるような感覚に襲われた。
「私はね、自分の舞台を壊されるのが大嫌いなの。私が泣けば、皆が私をかわいそうっていって、私を見てくれるわ」
絹は姿を見せないまま、結界から様々なものを呼び出し汐に猛攻撃を仕掛けた。
汐は成す術のないまま、全ての攻撃をその身に受け続けた。
「私の舞台には私と、私を引き立ててくれる脇役と舞台装置があればいい」
真っ暗な空間に、絹の澄んだ声と汐の身体を穿つ鈍い音だけが響き渡る。
「身内が死ねば、私は"悲劇をその身に受けたかわいそうな子"になる。困った人に笑いかけて手を差し伸べれば"心の優しい健気な子"になる。そうすれば周りは私に優しくしてくれるし、欲しいものだってなんでもくれる。何もかも思い通りにすることだって!!」
絹は甲高い声をあげて笑い出すが、ふと、声を落として言った。