第5章 無限城<参>
「絹・・・?」
汐が震える声で呼んだ瞬間、それはぶるぶると小刻みに震えたかと思うと、突然閃光と共に破裂した。
汐は間一髪で身をひるがえし、爆発を回避する。
すると爆発四散したそれの残骸が部屋中に飛び散ると、触れた場所がみるみる変色し魚介類が腐ったような悪臭が充満した。
「わあ、あれを躱せたのね。やっぱり汐ちゃんはすごいわ!」
この場に似つかわしくない、心からうれしそうな声が聞こえ汐は視線を鋭くさせた。
その視線の先には、海藻と白いサンゴがちりばめられた西洋風のドレスを纏った少女の鬼が静かにたたずんでいた。
「久しぶりね、汐ちゃん。相変わらず元気そうで何よりだわ」
鬼はそう言ってほほ笑むと、目をゆっくりと開けて汐を見つめた。その双眸には【上弦の伍】と刻まれていた。
「生きていたのね・・・、絹」
汐がそう言うと、絹はその反応が少し不満なのか困った顔をした。
「あれ?思ったよりも嬉しそうじゃないのね。こっちはせっかくあえて嬉しくて堪らないのに」
絹は両手を頬にあてると、顔を高揚させながら言った。
「だって、だって・・・。私の手で、汐ちゃんを殺せるなんて、こんなうれしいこと他にないわ!!」
血気術 冥々囹圉
絹が高らかに叫んだ時、絹の衣服から根のようなものが伸びだし、部屋中に張り巡らされていく。
畳や襖は瞬時に水分を含んで腐食し、、フジツボや海藻が浮き出していく。
やがて絹を中心とした悍ましい結界が完成した。
「これは・・・、炭治郎がここに居なくてよかったかも」
汐は充満する悪臭に吐き気を覚えながらも、汐は絹がいたであろう方向を向いた。
だが、そこに絹の姿はなく、照明の光も遮られた真っ暗な空間が広がるばかりだ。