第5章 無限城<参>
――"かわいそう"に・・・。
――絹ちゃんのお母さん、まだ若いのに小さなあの子を置いて死んじゃったんだって?
家の前で、一人さめざめと涙をこぼす少女に、村人たちはそんな声を掛けて去って行く。
――お父さん、漁に出てから何日も帰らないんでしょ?
――一人で"かわいそう"・・・
村一番の美少女と謳われた少女は、かわいそうという言葉に囲まれ、いつもその中心にいた。
かわいそうな少女。それだけで皆は少女を憐み、そしてその健気さに心を打たれた。
少女にとってそれは当然であり、心の安定剤だった。
だが、その心の平穏は突如として破られることになった。
『なによ。みんなして寄ってたかってかわいそう、かわいそうって』
その言葉に少女は、今までにない程驚いた。
『勝手にかわいそうなんて決めつけるんじゃないわよ。絹はかわいそうな子なんかじゃないわ』
その言葉は少女を作っていた世界を粉々に破壊し、少女が今まで作り上げてきたものを零にしてしまった。
『自分だけが不幸だなんて思わないでよ。だってあんたは、一人じゃないじゃない』
その言葉を発した人は、そう言って笑った。目が覚めるような、真っ青な色の髪を揺らして・・・。