第5章 無限城<参>
まるで羅針盤のように確実に隙を刺してくる、正確すぎる技の数々に炭治郎は押され始め絶体絶命の危機に陥っていた。
その時だった。
間一髪で義勇が駆け付け、猗窩座を吹き飛ばすと炭治郎の窮地を救った。
「義勇さん!!」
義勇の無事な姿に、炭治郎は安堵の声を上げた。
「俺は頭に来てる。猛烈に背中が痛いからだ」
表情はあまり変わらず声にも抑揚がないが、炭治郎が感じた匂いが義勇が怒りを覚えていることを証明していた。
「よくも遠くまで飛ばしてくれたな、上弦の参」
義勇は痛みをこらえるように大きく息を吸い、水の呼吸特有の静かな音が響き渡った。
「義勇さん」
炭治郎は思わず息をのんだ。義勇の左頬全体に、雫のような痣が浮き出ていたからだ。
「無事か、炭治郎」
「は、はい!!」
義勇が静かに声を掛けると、炭治郎は慌てて返事をした。だが、そこに汐の姿がないこと気づき、焦った表情を浮かべた。
「義勇さん、汐は、汐はどうしたんですか!?」
「・・・」
義勇は言葉を切ると、猗窩座を見据えたまま静かに言った。
「汐は追っ手と戦うために一人残った。俺に、お前を助けるように頼んで」
「そんな、何で・・・」
炭治郎は何か言いたげに義勇を見るが、義勇は汐の決意に満ちた表情を思い出しながら言った。
「汐は強い。それはお前が一番よく知っているはずだ」
「・・・!」
「それと、伝言だ。『あたしの分まで、あの野郎をぶちのめせ』だそうだ」
汐らしい言葉に炭治郎は表情を微かに緩め、湧き上がってきていた考えを振り払った。
義勇の言う通り、汐の強さを誰よりも近くで見てきた炭治郎は、汐を信じると決めた。
ならばやるべきことは一つだ。必ず勝って生き残り、鬼舞辻無惨を討ち倒す!
炭治郎は決意を胸に抱きながら、猗窩座に向かって刀を構えるのだった。