第5章 無限城<参>
一方。
猗窩座に吹き飛ばされた汐と義勇は、美しい絵が描かれた襖に囲まれは部屋まで飛ばされていた。
「無事、義勇さん?」
「ああ。お前のお陰で助かった」
義勇はそう言うと、汐の手を引いて立ち上がらせ周りを見渡した。
「だいぶ飛ばされたようだな。すぐに炭治郎と合流するぞ」
「言われなくても」
汐が返事をし、足を踏み出そうとした瞬間。鬼の気配が汐の身体を突き刺した。
しかも普通の鬼ではない、上弦の鬼の気配だ。
「どうした、大海原」
義勇は気が付かないのか、怪訝そうな顔で汐を見た。
汐は一つため息を吐くと、顔を伏せて言った。
「義勇さん、先に炭治郎の所へ行って」
「何を言ってる?」
「上客が来てしまったみたいなの。多分、あたし宛にね」
義勇は怪訝な顔のままで汐の顔を見て、ハッと息をのんだ。
汐の目は鋭く、炭治郎がいるであろう場所とは別の場所を睨んでいる。
この表情に義勇は覚えがあった。
それは、初めて刀を握り、鬼となった玄海と対峙した時に見せた、覚悟を決めた表情だった。
「だからお願い、先に行って炭治郎を助けてあげて。あたしの、あたしの大切な人なの。死なせないで」
汐の気迫に義勇は渋々折れ、小さく「分かった」と返事をした。
「あ、ついでに炭治郎に伝えて。"あたしの分まで、あの野郎をぶちのめせ"って」
女らしさの欠片もないその言葉に、義勇は呆れたような表情を浮かべつつも頷いた。
「分かった。だが、俺からもお前に伝えることがある。いや、きっと炭治郎もこう言うだろう」
――絶対に死ぬな。生きて戻って来い、汐。