第4章 無限城<弐>
「立ち止まるな」
義勇の静かな声が汐と炭治郎の強張った心に響いた。
「今は自分たちのするべきことだけを考えろ」
そう淡々と言葉を紡ぐ義勇に、汐は何かを言いたげに振り向いた。
義勇の表情はいつもの通りだったが、汐は気づいていた。"目"に、微かだが怒りと喪失感が宿っていたことを。
それは後方にいた炭治郎も匂いで察していた。
だが、悲しんでいる余裕などない。
二人は涙を乱暴にぬぐうと、無惨の元へ向かうべく足を進めた。
それから暫く走り続けた後、炭治郎は妙な事に気づいた。
恐らく、決戦に備えて上弦の鬼は全てこの城に集められているはずだ。
だが、しのぶが遭遇したにもかかわらず、上弦に全く遭遇する気配がないのだ。
「汐!無惨の位置はまだ遠いのか!?」
「せかさないで!!位置はわかるけど、具体的な距離までは把握しきれないのよ!!」
汐も苛立っているのか、声に棘があった。炭治郎も匂いを辿るが、他の鬼の匂いがそれを阻む。
(他の皆はまだ無事か!?)
炭治郎は焦りながらも、散っていったしのぶを想い胸のあたりを強く握った。
(しのぶさん・・・!!きっと勝ちますから。きっとみんなが、俺達が・・・)
その死を決して無駄にはしない。それは汐も同じだった。
(あなたが何もなくあっさり死ぬなんてありえない。きっと何かとんでもない罠を仕掛けていたはず)
汐は悲しみながらも、しのぶのしたたかさと決意を信じていた。
(大丈夫よ、しのぶさん。あんたの怒りと殺意は、あたし達が全部持っていくわ・・・。後は任せて)
汐は再び殺意を目に宿しながら、足に力を込めた。
その時だった。