第4章 無限城<弐>
『汐さんに話しておきたいことがあります』
『え、何?あたしなんかした?』
唐突に投げかけられた言葉に、汐は思わす身体を強張らせた。
汐も伊之助程ではないとはいえ、粗相を全くしていないわけではないからだ。
『いいえ、そう言うわけではありませんよ。ただ、あなたには話しておきたいと思って』
しのぶは一つ深呼吸をすると、真剣な面持ちで口を開いた。
『実は私はすでに、姉を殺した鬼の目星がついているのです。そして、その鬼の殺し方も』
『え、そうなの!?』
しのぶから告げられたことに、汐は大きく目を見開いた。
『方法は諸事情で詳しくは話せませんが、少なくとも並大抵の鬼ではない。おそらく』
『上弦、もしくはそれに匹敵する鬼ってことね』
汐が答えると、しのぶは少し困ったように笑って頷いた。
『私はこの通り体格に恵まれなかったため、鬼の頸を斬って殺すことができません。藤の花の毒も、鬼によって調合を変えなければならないし、万が一情報が共有されていたら耐性をつけられてしまうかもしれない』
しのぶは視線を下に向け、ため息をついた。こんなに弱ったしのぶを見るのは、汐も初めてだった。
何か声を掛けなければ、と思い汐が口を開こうとしたときだった。
『ですが、私は諦めるつもりはありません』
しのぶの鋭い声が、汐の意識を向けさせた。
『例え私の力が及ばずとも、必ず誰かがやり遂げてくれる。私はそう信じています』
そう言ってしのぶは汐の目を見つめた。その"目"には、強固な決意が宿っていた。
きっとその決意は誰が何と言おうと覆すことはないだろうと、汐は悟った。
『そっか・・・。流石柱ね』
汐はそう言いながらも、しのぶの事が心配になった。その決意が、誰かを悲しませることになるのではないかと思った。
『ねえ、しのぶさん』
『なんですか?』
汐は口を開いたが、言葉が出てこなかった。それは言ってはいけないような気がしたからだ。
『ううん、何でもない。ただ、もしその鬼を殺せたら、最期に何か言ってやれって思ってさ。『一昨日きやがれ!』とかさ』
『ふふっ、実はもう考えてあるんですよ。もしその時が来たら、こう言ってやりますよ』
――とっととくたばれ、糞野郎って。