第3章 無限城<壱>
無限城別室では。
鬼の群れの中を、桃色と緑色の鮮やかな髪が舞う。
桃色の長い刀身が煌めき、鬼の群れを一瞬で細切れにした。
(きゃー!!鬼がいっぱいで気持ち悪い!!)
蜜璃は顔を思い切りしかめながら、群れの中を突き進む。
先程無惨に斬りかかる者の中に、大切な継子である汐の姿を見てから、蜜璃の心には焦りが生まれていた。
(しおちゃん、大丈夫かしら?私は、しおちゃんが一番辛いときに傍にいてあげることができなかった)
産屋敷邸で汐の秘密をワダツミの子から語られたときから、蜜璃はずっと悔やんでいた。
自分の存在の意味と正体に苦しむ汐に、かける言葉が見つからなかった自分を、心の底から恨んでいた。
(私が何を言っても、しおちゃんの真実は変わらないけれど、あの子が私の大切な継子な事は変わらないわ!)
蜜璃はキッと表情を引き締め、目の前の鬼を見据えた。伝えなくてはならない。師範としてだけではなく、甘露寺蜜璃としての自分の言葉で。
「だから私は、こんなところで負けるわけにはいかないの!!」
蜜璃は声高らかに叫んで、思い切り地面を斬ると周りの鬼を両断した。だが、突然天井の襖が開き、新たな鬼が落ちてきた。
その時だった。
――蛇の呼吸 伍ノ型
――蜿蜿長蛇
背後から伊黒が飛び出し、うねる蛇のような蛇行した動きで鬼の頸を次々に落とした。
その手には、波打った形状の日輪刀が握られている。
「甘露寺に近づくな、塵共」
その雄姿を見た瞬間、蜜璃の胸はこれ以上ない程高鳴った。
(キャ――ッ!!伊黒さん素敵!!)
鬼の消滅を確認すると、伊黒は刀を下ろして振り返った。
「怪我は?」
「ないです!」
蜜璃の返答に伊黒は安心したのか、目を伏せて背を向けた。
「行くぞ」
「はいっ!!」
蜜璃は高らかに返事をすると、伊黒の後を追った。
(しおちゃんならきっと大丈夫。だってあの子には、炭治郎君がいるんだもの!!)
蜜璃は新たな決意を抱き、そして目の前の凛々しい背中を見つめるのだった。