第3章 無限城<壱>
「何故それを俺に頼む?」
「あなただから頼むのよ。あなたなら、情に絆されずにやるべき事ができる人だから」
汐は顔を伏せながら呟くように言った。
「だから、その時は「断る」
汐の言葉を遮って、義勇は静かに答えた。
「え?」
ぽかんとする汐に、義勇は更にづつけた。
「今はここを抜け、鬼舞辻無惨を討伐することだけ考えろ。雑念は迷いを生む。そして――」
――これ以上、誰かを悲しませるような真似をするな
義勇は静かにそう告げると、そのまま奥へと進んでいった。
その背中を、汐は嬉しそうな悲しそうな笑みを浮かべて、その後を追った。
義勇は静かにそう告げると、そのまま奥へと足を進めようとした。
だが、鬼の気配を感じてすぐさま振り返る。
すると、汐の死角から鬼が大口を開けて迫ってきていた。
義勇はすぐさま刀を抜こうとしたが、それよりも速く群青色の閃光が煌めいた。
そして間髪入れずに、鬼の頸が落ち灰となって崩れ去った。
「そうね。ありがとう」
汐は鬼の血を静かに払うと、刀を納めて歩きだした。
通り過ぎる汐をの姿を見送りながら、義勇は微かに目を見開いた。
(先ほどの反応速度、明らかに俺よりも速かった)
義勇は初めて汐と出会った時の事を思い出していた。
粗削りだったが、刀を初めて持ったとは思えなかった動き。
あの時とは比較にならない程、汐は強くなっていた。
(今の大海原の実力は、柱と同等、いや、それ以上かもしれない。継子の名は伊達じゃない)
義勇は汐の成長を驚き喜びながらも、危うさを感じていた。