• テキストサイズ

お隣さんはブラック本丸

第5章 時間遡行軍


 突如現れた時間遡行軍を倒した三日月宗近と石切丸が帰還した。時間遡行軍の練度が高くなかったのか、それともあいつらがキレていたのか無傷だ。
 心配していたあの女は無事に家に送り届けた後だったので、後日三日月宗近と石切丸は無事だということを報告しなければ。心根が優しいあの女はずっと心配する。

「あの娘はどうした?」
「帰らせた」
「そうか」

 本丸では通常、無断で出陣することを禁じられている。資源が足りない時を除いてはおれ達は本丸で暮らすしかない。
 だが、今回は訳が違った。胸騒ぎと共に空を見上げた時、暗雲が込み上げて赤黒い稲妻が見えたのだ。そこに狙っている誰かがいるかのように、その場の空だけに。
 遠征帰りだったこともありそのまま飛び出すように遡行軍の元へと走れば、後ろから三日月宗近と石切丸が着いてくるのがわかった。更に嫌な予感がした。
 遡行軍の気配を辿って行けば、あいつが、遡行軍に襲われてる最中だった。
 逃げろよ。おれに助けを求めろよ。おれの名を呼べよ。
 そう思いながら、まるで死ぬのを待つかのように立ち止まった女を助けるべく体が動いた。おれの腕に閉じ込めた女は、相変わらず氷のように冷たくて、それでいてしっかりと熱を感じて、安堵の息が漏れかけた。

「肥前忠広」
「あ?」

 思い出すのを止めて自室に戻ろうとすれば、突然三日月宗近に呼び止められる。
 なんの用だよという意味合いを込めて睨みあげれば、目の前の食えない男は小さく笑う。
 笑い終えた男は目を細めながらいつもの笑みを貼り付けた。

「あの娘は何者だ?」
「……」
「……言う気は無いか」

 あの時、あいつが何かを心配して三日月の名を呼んだことが原因だろう。さすがに違和感に気づいたようだ。
 だが、おれが話すことはしない。あいつが嫌がることはしない。あいつが話さないということはそういうことだ。
 ピリついた空気が肌に突き刺さる。睨むことを止めずに、男の横を通り抜けて呟く。

「あんたがあいつを知る必要はねぇ」
「……」
「あいつに手を出す奴は斬る。それだけだ」

 殺気を込めて告げれば一瞬の間の後、男は愉快そうに笑った。何が面白いと眉間の皺を濃くしながら、そのままその場を立ち去った。
 後日、あいつに三日月宗近と石切丸が無事だということを知らせれば、安心したように瞳だけが揺れた。
/ 57ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp