第5章 時間遡行軍
なんで、どうして、なんで。
ランドセルを背負ったまま神社の階段を三段飛ばしで下る。遡行軍が此方に向かって来ている。
何故私が狙われているんだ。私は、だって、あ、転生者だからか、それとも平行世界の人間だったからか、いずれにせよ、生で見る遡行軍は不気味だ。
階段を降りたと思ったら目の前に大太刀が降ってきた。大きな音が立っている、というのに田舎すぎて誰もこの状態に気づかない。
「っ!」
気づいたところで手も足も出ないのは分かっている。が、助けを求めてしまうのが人間という生き物だ。
遡行軍から逃れるためにすぐ近くにあった林の中に入る。林は視界が悪い。短刀には追いつかれてしまうが、大太刀と槍と脇差なら凌げるはずだ。
ブゥンという風を斬る音が聞こえた。同時に木の倒れる音が耳に届いた。上手く息が吸えない。
お隣さんに助けを求めにと思ったが、本丸という機能が停止してしまう。それはいけない。どうにかして撒かないと。
なんて考えてる余裕は無かった。私の右に短刀がいた。無機物のような骨の塊が私を見つめた。
「うっ!」
咄嗟だった。ランドセルを短刀にぶつけた。二、三匹位なら何とかなった。と言っても相手からすれば軽傷のようなもの。寧ろ、激昂させてしまったかもしれない。
確認する暇もなく林を駆けて林から抜け出した。
どこに。私は、どこに逃げよう。
なりふり構わず走り出した。人がいる方はダメだ。他の人に迷惑がかかる。じゃぁ、どこへ?
カサカサというゴキブリのような音が近づいてくる。脇差だ。振り向く余裕なんて無いのに、振り向いて確認すれば脇差がすぐ近くにいて、そのすぐ後ろに大太刀がいた。
あれ、槍は……?
「はっ!」
走ってる方向に振り向けば槍が待ち構えていた。あっ、と思ったのは遅かった。どうしよう。死ぬ。
そこでふと考えてしまった。かつて母に殺されかけた時のように。
別に逃げる必要も無い。ここには私の刀はいない。友達もいなければ大切にしてくれる家族もいない。あれ、私が生きてる意味無くない?
足が止まった。槍を見上げた。驚いた顔をしながらも私目掛けて槍を振り下ろす。後ろからも刀を振る音が聞こえる。
死は興味がある。どうなるのか。だから見ようとした。どうやって死ぬのか。
槍の尖端が目の前に来た時、私の視界は真っ暗になった。