第5章 時間遡行軍
「ねぇ苗字ちゃんってさ、お父さんが原因で離婚したってほんと??」
「かわいそー!!」
久々に家族以外の人間と話した気がする。ぐったりと項垂れながら、鳥居に凭れ掛かる。不躾なのは分かるけど柱って丁度いいんだ。神様許して。
話した、と言っても、正確には馬鹿にされたが近いか。あれは確実に悪意だった。
否定も肯定もせずに冷めた目で話しかけてきたクラスメートを見つめたが、やはり子どもでも女という生き物である。同性には何かと厳しい。
じんじんとした痛みで熱を感じる頬に触れてため息をつく。やはりこの世界で友達は出来ないかもしれない。
「嫉妬なのか……八つ当たりなのか……」
後者かな。別に私は誰かと仲良くしてる訳でもないし、自分に自信を持てる顔をしてる訳でもない。まぁそりゃ、顔面が酷くて外を歩けないというくらいのブスじゃないし。
今みたいに幼い時は、顔立ちが父に似ている。けれど、実際私が似ているのはどちらかと言うと母だ。歳をとるにつれてどんどん母に顔が似ていく。
嫌いではあるけど母は美人だ。母に似ていくことは嫉妬の対象になるということ。あの人も嫉妬を買いやすかった。
クラスメートの子達が何に対して八つ当たりをしたのかは知らない。が、大人しい子は先生に目をつけられているから変なことをすればすぐにバレる。
先生に気にかけてもらってるが、特によく話すわけでもなく一人で過ごすことが多く、人に頼らないという私は格好の餌食だったのだろう。
「いじめられても気にしないからなぁ……」
たかだか人間の、つまらないいじめ。そりゃ嫌だけど、実の母に殺されかけるよりはマシだ。全然我慢できる。
我慢するのは得意だ。"お姉ちゃん"だったし、母の面倒を見てたのも私だし。弟の母代わりも私だ。だから我慢なんて幾らでも出来る。
もう一度ため息でも着こうかとした時、ピリついた空気が肌に突き刺さった。鳥肌。悪寒。ゾッとした。
「なに?」
辺りは夕暮れ。逢魔時。この時間は何かが起こる。それに私がいる場所は神社だ。しかもよりによって鳥居は赤い。
赤い鳥居はダメだとどっかの記事で読んだ。
胸騒ぎがして慌てて立ち上がって、無意識に振り向けば、そこには大太刀がいた。
「……時間、遡行軍……」
呟いた瞬間、赤い稲妻が走り、短刀や脇差、槍等の遡行軍が増えた。