第5章 時間遡行軍
「あぁん! ぁあ!」
耳障りな女の喘ぎ声が耳に届く。ぐちゃぐちゃと鳴る愛液による音がきもちわるい。
満足させるためだけに、彼等に何もされないように腰を振る。そんな自分に嫌気が差して吐き気を伴う。
早くこの時間が終わればいいのにと願う。
「よかったわ。またよろしくね」
今にも歌いそうに言った審神者は素早く着替えて本丸から出て行った。執務もせずに。俺達を見ようともせずに。
今更審神者にどうこうしてもらうつもりは無いが、主なら主らしくして欲しい。願うのはタダだ。
いつものように深く顔を隠して、何事も無かったように日々を過ごす。
夜伽に命じられるのはアイツの好みの男だけ。なのに俺を戯れで抱いた時、楽しかったのかなんなのか、よく夜伽に呼ばれるようになった。傍迷惑な話だ。
「……あ」
布の隙間から差し込む太陽の光が眩しくて目を逸らす。逸らした先に見つけたのは、隣の家に住む近所の子ども。
俺達の癒し枠。
触れたい、話したいと思う反面、汚れてしまった俺があの娘に触れて汚してしまわないかの不安がある。
あの娘の傍にはいつも肥前か石切丸が居ると言うのに、今日は誰もいない。
審神者が来てたからあの娘を来させる気は無いと思っていたのに、あの娘は奇跡的に審神者に存在を気づかれていなかった。
「!」
目が、合った。
ふわりと愛想笑いをした娘に目を奪われた。優しく撫でるように風が吹いて、娘の髪を撫で遊ぶ。
美しいと思った。
見目が美しい訳でもない。けれど何故かあの娘を本能的に美しいと思った。同時に決して触れてはいけないと思った。
「まんばちゃん」
「え……」
俺はあの娘に自己紹介をしたことがあったか。
おいでよと呼ぶ娘の隣に行きたかった。足は動かなかった。
娘は何も言わずに困ったように眉をひそめた。俺のせいでそんな顔をしないでくれ、なんて都合がいいか。
「ムリしないで」
娘は色々脳内で考えてる俺に向かって突然告げた。
この距離からじゃ表情を見られることは無い。のにも関わらず何の前触れも無く告げられた。それはとても優しく温かいものだ。
軽く頭を叩いた音が聞こえ、いつの間にか肥前が娘の隣に戻ってきていた。娘の頭を叩いたことに、娘が文句を言ってるようにも見える。が、その声は俺に届かない。
いいな。なんて一瞬感じた感情はすぐに消えた。
