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お隣さんはブラック本丸

第5章 時間遡行軍


「君は最近どこに行ってるんだい?」

 私の頭より少し手前の、ナニカを弾き飛ばして石切丸は笑みを深めながら告げた。いや、わた、私も気になるよ、今、何、弾いたの?
 私には幽霊と呼ばれるものが視えない。けれど、質がいいからなのかなんなのか、よく変なものに魅入られて憑けてくるらしい。ここ最近はとにかく酷いようだ。
 追い祓ったナニカの方面をじっと見つめた石切丸とは、この二年の間にだいぶ喋るようになった。
 本丸にお茶を持ち込んで小さなお茶会を開くことを週一ペースでやっている。

「お菓子食べるかい?」
「ううん、いらない」

 関わらないと決めたはずなのに、肥前と仲良くなってから、安定が助けてくれたあの日からズルズルと関わりを持ってしまった。
 関わらないと何度心の中で唱えても、意思が弱いのか、隣の男士が無事なのか気になって流されてしまう。
 小さく息を吐きながら石切丸が用意したお菓子を横目で確認する。あぁ、燭台切光忠や小豆長光あたりの手作りだろう。赤の他人は食べれないやつだ。
 美味しそう。とは思う。でもそれだけだ。神様の作ったものや、神様が出したものは食べてはいけない。審神者でも無いのだから。

「たべねーの?」

 ぬっと顔の横から腕が生えた。同時に聞き覚えのある声が耳に届いた。ここ最近になって出会った男士の声だ。
 小さく首を横に振ると「美味いよ?」と告げながら口元にお菓子を持ってくる。いつもなら食すが、ここはほぼ神域だ。絶対食わん。
 頑なに拒否の姿勢を続けていれば、声の主は諦めたようで自分で食べた。ほっと息を吐いたのもつかの間、声の主は私を抱き上げて腕の中に収めた。

「姫鶴。彼女が困ってるよ」
「えー、いいじゃん。ね?」

 姫鶴一文字。小さい子が好きな刀で私の推し。私を覗き込むその顔はとても楽しそうだ。
 姫鶴から顔を逸らし、石切丸に助けを求めるように顔を向ければ、石切丸は両手を広げてくれる。姫鶴の腕の中から抜け出して石切丸の腕の中に潜り込むと、姫鶴の不服そうな声が届く。

「もっと俺に慣れて?」

 無茶言うな。面を見て来い。面を。顔が良いんだ。無理。
 石切丸の大きな腕で目線をガードしながら、姫鶴をちらりと見上げれば目が合った。そして微笑まれた。
 変な声を出さないようにまた隠れれば姫鶴の笑う声が聞こえた。助けて肥前。
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