第5章 時間遡行軍
時の流れというものは速いもので、私は七歳になった。去年、父と母が離婚した。母に弟が着いていき、私は父と暮らすことになった。どうせこの生活もすぐに終わるけど。
父はたまに浮気相手と遊びに出かけ、家に帰ってこない。けれど、私という負い目があるから基本は帰宅が早い。
離婚したくせに母のことが結局好きな父は、恐らくどこかで再会して、もう一度籍を戻す。それが運命で、それが逃れられない呪縛だ。
「はぁ……」
去年小学生になったため地元の小学校に通っているが、案の定、子どもには警戒されて友達が一人もいないという現象が起きた。入学した当初からこの調子だ。多分卒業するまで出来ないだろう。
片親ということもあって悪目立ちをする。相手が良かれと思って発した言葉さえ剣になる。精神が大人と言えど、体は幼いため、体に負荷がかかる。
父に迷惑をかけないためにも学校には頑張って通っているが、体が登校を拒否している。体への負荷が凄く、お腹が痛い。
「?」
放課後は真っ直ぐ帰れという先生の言葉を無視して、近くの神社の階段で蹲っていると視線を感じた。
視線の先を見ても誰かがいる気配は無い。最近、こういうことが連続で起きている。何かあるのか。
気の迷いと思うことにして、階段の上から町を眺める。ここの神社は小さいがとても見晴らしが良く、こうして階段に座っているだけで町が一望出来る。お気に入りの場所だ。
家に帰りたくない時は、学校の帰りに絶対寄るようにしている。
「……逢魔時」
夕焼けが目に染みる。眉間に皺を寄せ、体を縮こませる。キリキリと悲鳴を上げるお腹が帰りたくないと告げている。
父が帰ってくるのは遅い。ゆっくりしていても怒られないけれど、神社にいるのは正直まずい。逢魔時はダメだ。
「なに、してるの?」
どうしようかと悩んでると聞こえた声。恐る恐るといった声音だが、それはとても怪訝そうな音でもある。
ゆっくりと後ろを振り向けば雲さんがいた。
この二年の間に、すっかり顔見知りになってしまったお隣さんの刀剣男士だ。
お腹痛いと小さくと呟くと俺もと返される。二人して苦笑いをしてれば、雲さんは私を抱き上げた。
「帰ろ?」
柔らかな声に小さく頷けば、雲さんは満足そうに笑った。
この笑顔が見れるのはあとどのくらいなのだろうか。
そんな事を考えながら目を閉じた。
