第4章 目撃
肌がひりつく。ビリビリとした痛みは、少しの風でも痛く感じる。平手打ちは痛い。成人女性の、しかも細くしなやかな掌で叩かれるのは。
小さく息を吐いて月が照らす夜空を眺める。雲は無く星が煌めいて見える。田舎だな、なんて思いながら肌寒さに自分の体を抱きしめる。
十時前に外に放り出された。体感時間は二時間くらい経っているが、果たしてそれは本当なのだろうか。小さく嘲笑うように視線を土に向ける。
母の機嫌が治るまでは家に入れてもらうことは敵わない。弟ばかり可愛がる母にとって、私という存在は都合のいい捌け口なのだろう。前世からもそうだった。
優しい時は優しく接して。自分の言うことを聞かせようと無意識にコントロールしようとする。前世の私は思い切りコントロールされて生活すらままならなかった。
だから逃げ道を作った。刀剣乱舞というゲームに。尽くすのは好きだ。好きな相手が喜ぶ顔を見るのが好きだから、愛に飢えてる加州を初期刀にした。沖田総司を知っていたからということもあるけれど。
「眠い……」
体が寒さで震える。喚かないから気づかれない。喚いたところで無視されるのが落ちだ。それなら大人しくしてればいい。大丈夫。母によって心は既に壊されている。
夜は寒い。好きだけど、子どもにとってはこの寒さは辛すぎる。寒い。寒いな。このまま寝てしまいたい。
おかしいな。まだ冬では無いのに。
船を漕ぎ始めた時、冷たい風が頬に当たった。と、同時に体を持ち上げられた。
「だれ……?」
眠たい目で私を抱き上げたひとを見上げる。白檀の香りがする。ぼんやりと視界に入ったのは、青。あぁ、三日月だ……。
私をしっかりと抱えた三日月は何も言わずに本丸へと向かった。ゆっくりと歩くためか、揺れる体が、暖かな体が心地よくて更に船を漕ぐ。
眠ってはいけない。眠っては。
首を横に振って眠気を覚ましていれば、困ったように三日月が私を見下ろした。
「眠っても構わんよ」
優しげに告げた三日月の言葉に首を横に振る。
これ以上面倒をかける訳にはいかないし、それに、私はまだこの本丸の三日月宗近という男を知らなすぎる。
ぼやける視界の中で本丸に入ったのがわかった。少し先に、見知った服を着た赤と黒の髪が見えたのと同時に意識を飛ばした。
次に目を覚ましたのは自宅の部屋の中だった。