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お隣さんはブラック本丸

第4章 目撃


 あれから数日が経った。あの時以来、沖田組には出会ってない。そもそも刀剣男士とは関わるべきでは無いのだ。あぁいう本丸には特に。
 人の念がどれだけ恐ろしいかは身をもって知っているし、もし仮に私なんかと仲良くしているとバレたら彼等が危うい。
 距離を置いて、普通にご近所さんとして付き合ってればいい。それでいいの。

「なんで」

 不満げに零れた言葉は相手に届いた。が、聞く耳持たずだ。田舎ゆえに、どこにでもある神社をうろうろとしてたら確保されたのだ。何故か、五月雨江に。
 関わったのは一回だけ。滝のような豪雨だったあの日、肥前が風呂に入っている間に江部屋に居た時だけだ。
 なのに何故、私は彼に確保されているのか。そして彼はどこに向かっているのか。

「着きました」

 降り立った場所は少しだけ拓いた場所。山の中にぽつんと浮き出た、小さな展望台のようだ。五月雨に抱えられて見下ろす田舎の町はとても長閑だ。
 薄らと目を細めて町を見下ろせば、一つだけ広々とした場所がある。あそこが彼の本丸だ。他の家に比べて、土地面積が広く母屋自体も大きい。さすが、と言うべきなのだろうか。
 ぼんやりと見つめてから、ちらりと五月雨江を見つめる。考え事でもしているのか、暗い表情で本丸の方面を眺めている。

「……おにいちゃん」
「……はい、どうかしました?」

 ねぇと言いかけてやめた。私はこの子に何も知らせてないし、これからも恐らく知らせないから。ねぇと言えるのは肥前にだけ。私は子どもの振りをしなくてはいけない。

「ありがと」

 小さく。なるべく口角を上げて微笑んだ。お礼を言われるのは嬉しいことだ。おそらく。
 お礼は言い慣れてないけど、伝えることは大事だ。
 私の言葉に驚いたのか、五月雨江は小さく目を見開いたあと「こちらこそ」と柔らかく微笑んだ。
 その笑顔を雲さんに、村雲江にも見せればいいのに。
 思うのはタダだ。叶えることは難しいかもしれないけれど。何せ、あの環境下だから。

「帰りますか」
「ん」

 暫く町を眺めていた。その間、会話という会話は無かった。五月雨江が本丸の前で降ろしてくれたので、そのまま家に帰った。
 楽しい時間というのは一瞬で過ぎるものだ。
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