第2章 出会い
薬研が家まで送ってくれたおかげなのか、薬研が家に案内された。隣の豪邸に住んでいる子だとわかった途端、母が家に招き入れたのだ。
最初は遠慮していた薬研も母の勢い、否、母の容姿が苦手なのか、大人しく言うことを聞いているように見えた。
それはまるで__。
「どうした?」
じっと見過ぎたようだ。視線に気づいた薬研が、様子を伺うように私を見つめた。
何も知らない子どものように振る舞えば、一瞬だけ何かを言いかけて、薬研はすぐお兄ちゃんの顔を覗かせた。
短刀。しかも、あの、織田信長の刀。意外と人のことをよく見ている。もしかしたら、バレているのかもしれない。もしくは、違和感を覚えているのかも。
頭の中で一周廻った問いは考えないようにする。そうでもしなければ、変な深みにハマってしまう。
「何か食べてく?」
「いや……お世話になるつもりはないので、大丈夫です」
「あら、そう?」
小さな一軒家に、薬研藤四郎がいるのは変な感じだ。そこだけ、異空間のように感じる。
ぼんやりと母と薬研のやり取りを見ていたら、薬研と目が合った。柔らかい笑みだ。
「名前ったらお隣さんがそんなに気に入ったの? お隣さんと結婚する?」
絶対に嫌だ。子どもながらに嫌な顔をしたと思う。思わず、言葉が零れそうになったのを飲み込んだだけ偉いと思う。
大きく首を横に振っているのにも関わらず、母は聞く耳持たない。気づいてるくせに。お前が話している男が普通の人間ではないことに。
ため息は飲み込んだ。私がため息を付けるようになるのはまだ先だ。変な態度を取れば、また面倒なことに。
ピンポン。と、来客を知らせる音が家に響いた。
「はぁい」
間の抜けた子どもの声を出して、インタホーンを確認せずに玄関を開けば、先程見た顔とこの前見た顔がいた。
ゆっくりとしゃがんだそのひとは、私と目を合わせるなり軽く頭を撫でた。
「危機感を持ちなさい」
柔らかな声が耳に響く。石切丸の声は心地良いなんて、思ってる場合では無いのだ。
薬研がいるリビングに向けて「おむかえ」と叫べば、薬研も察したのかゆったりとした足取りで玄関までやってきた。
家のものがお世話になりました、弟が、等の言葉を母に言ってるのを見たあと、お世話になった薬研を見送った。
関わる気は無いのに関わりが深まっている……。