第2章 出会い
慣れてはいけないのに慣れてしまった光景にゾッとした。ゾッとしたは言い過ぎなのだろうが、ゾッとしたくもなるのが現状だ。
いつものように家からほっぽり出されたついでにお使いを頼まれて、何も考えずに歩いていたのが間違いだったのだろうか。
「おや。これは……」
辺りを見渡しながら歩いていたのが原因だったのだろう。ぶつかった相手は一期一振だった。終わったと思ったのは同時だった。
一期一振の顔を確認した直後、見えたのは鮮やかな黄緑色。瞬間。
「ふぎゃー!!」
届いた声は元気の良いものだった。全力で此方に駆けてくる毛利くんを眺めながら、この場をどうしようかと思考する。
逃げるか、それともこのまま受け止めるか。いや、見なかったことにしてお使いという名のパシリを続けるのが正解か。
うんうんと唸っていたら突然抱き上げられた。その腕はこの間よりも細く、折れてしまいそうだと感じた。
「こら、毛利。ダメじゃないか!」
「毛利。嬢ちゃんが吃驚するだろ」
低い声と、叱る声。私に毛利くんが到達する前に、私の前に立った一期一振が毛利くんの首根っこを、まるで猫を捕まえるかのように掴んで持ち上げている。
一方。私を抱き上げた声の主は薬研藤四郎。聞きなれた低い声と、妙に男前な声音が印象的ですぐに思い出せた。
怒られてる毛利くんを横目に、降ろして欲しいと願いを込めて薬研を見つめれば、すんなりと降ろしてくれる。
「大丈夫か?」
小さく頷けば薬研は柔らかく微笑み、私の頭をぽんぽんと軽く叩く。普通の子どもならここで恋に落ちてるんだろうな、なんて。
一期一振に叱られている毛利くんをぼんやりと眺めながら、メモ帳を握りしめる。
このままここにいればゆっくり出来る。けど、帰るのが遅くなれば気分屋の母は確実に怒鳴るだろう。
「それ買いに行くなら俺っちと行くか?」
頭上から降り注いだ声を辿るように見上げたら、兄弟を相手にするかのような視線で、物腰で私を見下ろす薬研がいた。
毛利くん達とメモ帳、それから薬研を交互に見たあと軽く頷けば、薬研は私に手を差し伸べた。
思わずメモ帳を差し出せば、薬研は何度か瞬きをして私の手を取った。
「さ、行くか」
すごいな、初恋泥棒。