第2章 出会い
「何してんだ」
いつものように気に入らないことがあって家から放り出された私は、夜の暗闇の中、ぼんやりと田んぼを眺めていた。
買い物帰りなのだろうか。聞こえた声に目線を動かせば、肥前が呆れた顔で私を見つめていた。
「……躾されてる?」
「迷いながら言うな」
他の良い言い方は知らない。親の躾ってそんなもんじゃないの。知らんけど。
地べたに座り込んで反省の色も見せずに、夜空に浮び上がる淡い月を眺める。今日は雲がある。夜の雲は月の光を隠してしまう。
不気味でいてとても美しい光景にほっと息をつく。
「……行くぞ」
「は?」
肥前の前で猫かぶりするのは辞めた為肥前からの容赦がない。強く引かれた体は、簡単に持ち上げられて抱きとめられる。
「何を」と言いかけて口を閉じた。この際、家から離れられるのならなんだって構わない。本丸や刀剣男士と関わりを持つのは危険だけど、どうせ今だけだ。
七つまでは神の子。そう。どうせ七つまで。これは今だけの関係だ。
「……いつの間に仲良くなったんだい?」
大きな門を潜って早々石切丸に出会った。じっと私と肥前を見比べて口を開いた。
仲が良いと言えるのだろうか。無言の状態で肥前を見上げると、肥前は何も言わずに買ってきたものを石切丸に押し付けた。そんな雑でいいのか。
「何かあったら言うんだよ」
大きな手が私の頭を軽く撫でた。思わず体が強ばってしまったが石切丸が悪い訳では無いので許して欲しい。
何も言わずに首だけを縦に動かせば、満足したように微笑んで石切丸は立ち去った。
石切丸の背を見つめ行先を確認しようとした瞬間、肥前の手で目元が覆われた。これ以上は見てはいけないということなのか。それとも別の何かか。
変に気になってしまうと後に引けなくなるのが悪い癖だ。気にならないを装って目元に神経を集中させて後悔した。
「手、邪魔」
「へーへ」
思ったよりもごつごつとして男らしく、そこまで体温が無い手。けれど、離れていった手は確かに熱を持っていて、もの寂しく感じてしまった。細い、指だ。
「おい。猫かぶり」
「条件反射!」
噛み付くように言葉を返す。くつりと喉で笑う声が頭上から聞こえるのが落ち着かない。
肥前の手を軽く叩いて歩くように促せば、肥前は大人しく歩いた。向かった先が広間でまた縮こまったのは言うまでもない。
