第2章 出会い
「で? おれに何の用だよ」
人気の無い縁側に移動して直ぐに問われた。どかりと雑に座った肥前を横目に、そのまま庭を眺める。別に用と言う用は無い。強いて言うなら、余計な事を言わないで欲しいというお願いだ。
噛み砕いて告げれば、隣にいる男は呆れたように小さく息を吐き出した。はてさて、それはなんのため息か。
「言わねぇよ」
「……」
「つっても信じねぇか」
ぶっきらぼうに言う言葉は優しい。見目が幼児だからなのか、それとも。
ぐるりと一瞬巡った思考を放り投げて、息を吐き出す。考えない方がいい。余計なことは。面倒なことになる。
前世で推しだった彼は、優しいを通り越して根が甘い。だから、言わないことなどわかっている。分かっているけれど、一応伝えておきたかったのだ。
「大丈夫。信じてるよ」
ぽつりと漏れた言葉は幼児とは言い難い喋り方と声音。自分でも驚く程に落ち着いている。
最初に気付いたのが肥前忠広という優しい刀で安堵しているのか。自本丸の子では無いのに。
視線を感じて肥前を見つめれば視線が交差した。冷たいようで優しい赤が、私を覗き込む。私を見つめるそれは心なのか、果たして。
「……あんた、本当は幾つだ?」
「さぁてね。前世の記憶があるだけさ」
あえて巻き込むように。挑発するかのように。告げた言葉に、肥前の眉間は寄った。面倒事に巻き込まれた気配を察知したようだ。さすが脇差。優秀だ。
風が頬を撫でていく。柔らかな風は、時に髪を靡かせて鬱陶しい。
髪を抑えながら肥前を見つめれば、何かを呟きかけてその唇から何か言葉が漏れることは無かった。
「……お前は無事なの?」
「……おれはな」
主語が抜けていても通じる時は意外と通じるものだ。あの部屋について、否、審神者のことについて。
深く関わることはしたくは無い。だからそれ以上聞く気は無い。
「そっか……」
声は小さかった。少し震えていたのか。怒っているのか。多分どちらも。小さな声は風によって掻き消されたことを願う。
部外者が関わることは無いのだ。悪化してしまう危険性があるから。見ている、だけ、見て見ぬふりしか今はまだ出来ない。
下唇を無意識に噛んだ。少しだけ鉄の味がした。