第2章 出会い
お隣さんがブラック本丸と知ってから数日。とてもピンチ。数m先に敵を発見。黒と赤の髪をした、加州を省く私の最推し。その後ろに石切丸。お使いかな。お疲れ様です。逃げるが勝ち。
ビュンと勢いをつけてその場から走り去る。なりふり構ってられない。肥前忠広は無理だ。ダメだ。推しは推しとして遠くから眺めているのが一番いい。お家に帰りたくないけど帰りたい。
あっ。と、思った時には既に遅い。木の根が飛び出てる場所に足を引っ掛けて、顔面から地面に着地した。顔痛い。
このくらいで泣くことは無いけど、痛いもんは痛いし絶対顔汚れた。ゆっくりと起き上がって、顔を俯かせながら歩く。こんな姿、推しじゃなくたって誰にも見せたくない。
「よっ、と」
「ヒェ?!」
地面しか見て歩いてなかったら、突然抱き上げられたのには心底驚いた。何事と思って其方を見てみれば、金色の綺麗な髪を持った男が私をみていた。
男の姿を上から下まで確認して暴れる。顔を見た瞬間誰かわかったが、それでも現実逃避はしたかった。軽々と私を脇に抱えたクソじ……一文字則宗は堂々と本丸に入っていく。
誰かの部屋に着くと、泥まみれになった私の顔をウエットティッシュで拭い綺麗な状態にした。怪訝な顔で一文字則宗をみれば、則宗は愉快げに目を細めていた。
「おーい。坊主〜」
「にゃ?」
「この娘か〜?」
嫌な予感がする。お礼だけ告げて則宗から逃げようとした瞬間、簡単に私の腰を掴み抱き寄せた。目を細めて、まるで品定めするかのように私を見つめる則宗にゾッと悪寒がした。
南泉一文字が来る前に逃げなくては。なんて思いながらじたばたと暴れる。私が何をしたのかは知らない。若しくは何を見られたのかはわからない。けれど、嫌な予感がついてまわって気持ち悪い。
軽い足取りが耳に届いて来て嫌な胸の高鳴りもどんどん強くなる。どうする? どうしたら、ここを抜けられる?
「ぃ、いやぁあぁ!!」
大人しい子どもが声を上げて嫌がれば、誰かが飛んでくるはず。涙は出ないけど嘘泣きの方法は知っている。前世の友に教わった。どうしたら嘘泣きになるのか。涙を流さないで泣いてるように見えるか。
大暴れしながら泣き真似を続ければ、軽い足取りのひとも焦ったように則宗に声をかけていた。