第2章 出会い
広間から抜け出して庭に降り立つ。借りた服は明日返しに来よう。石切丸がご飯を食べてる隙に、先程連れてこられた道を歩く。
本能で歩いていれば門まで辿り着ける。これ以上ここに深く関わってはいけない。審神者さんにも迷惑だろうし、それにここの空気は好きじゃない。
大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。その瞬間、強い血の臭いを感じ取った。これはいけない臭いだ。
本丸だから有り得てもおかしくない臭い。けど私は他人で、関係がなくて、このまま進むと絶対に臭いの男士と遭遇する。いけない。
止まらない足が見つけたのはとある部屋。空気の入れ替えなのか、少しだけ障子の隙間が開いている。ここだ。これが原因だ。
「おもたい……」
おもたかったのはここにある恨みのような念。色んな想いがぐちゃぐちゃと混ざりあって出来てる。ここは手入れ部屋じゃない。なら何。
ドクドクと嫌な脈が打つ。ここは、ここは、いけない。心臓が煩い。耳元でバクバクと鼓動が聞こえる。
隙間から見えたのは青。赤。橙。黄。金。浅葱__
「そこにいるの……誰」
ひゅっ。空気が息を吸った。音にならないものだ。いけない。見つかってはいけない。聞き覚えのある声。聞いたことのある声。これは。
加州清光ーわたしのしょきとうーの声。私の本丸じゃない、私の加州じゃない加州の声。
軋む畳の音が聞こえる。血の臭いが強くなる。来ないで。お願い。傷ついた状態で無理して外に出てこないで。
駆け出した足は遅い。所詮は子どもの足だ。間取がわかっていない本丸の中だ。主、もしくは政府職員によって、酷い扱いを受けている本丸だ。関与してはいけない。関与なんて出来ない。
「どうして」
止まった足が絶望に染まる。自本丸ではないことくらい分かってるけど。自本丸が無いことくらいわかってるけど。
こんな田舎に、クソみたいな審神者がいるなんて思わなかった。実際に会った訳では無いけど、見たこともないけどそれでも。
「物に当たればいいってもんじゃないでしょ」
彼等は神様で、人が後世に残した歴史を知る刀で。歴史を守るために存在しているのに。自分の刀にどうしてあんな事ができるの。
握り拳を無意識にの内に作って、爪がくい込んで微かに痛い。私は何も出来ない子どもなのに。胸の中を蠢く怒りが溢れて虚しくなった。
私が怒ったってしょうがないのに。
