第4章 素直 前編【※錆兎】
「……義勇、お前…強くなったな。」
「違う。錆兎、お前に雑念があるからだ。」
「…フッ…そうだな。」
義勇に痛いところを突かれ、錆兎は笑うと、その場に力なく座り込んだ。
稽古を終え、錆兎は流れた汗を拭くため、自分の持ち物から手ぬぐいを取り出した。
ふと隣で汗を拭う義勇の鞄が目に入る。
その持ち手の部分に、女子たちが騒ぎそうな、可愛い青いガラス玉の装飾品が着けられていた。
「なんだこれ?お前…えらく可愛い物、付けてるな?」
錆兎がその小さな小物を指差した。義勇がその指の先に視線を向ける。
「あぁ…これか?陽華に貰った。」
「陽華?」
「この間、任務明けで二人で街に買い物に行ったんだ。可愛い店構えの雑貨屋があって、陽華が入りたいと言うから、入ったら、これを買ってくれた。」
義勇は、そのガラス玉の小物を手に取ると、その時の記憶が蘇ったのか、穏やかに微笑んで続きを語った。
「俺の目の色だからって、選んでくれて、無理矢理に着けさせられた。次に会った時に外してたら、キレるとまで脅されて、そのままだ。……そう言えば、アイツも買ってたな。自分の色、薄い茶色のガラス玉を。」
ってことは、…それはおそろいって…ことか?
錆兎の頭にそんな言葉が過る。そんな仲のいい恋人同士のような事。やはり陽華の、他にもいると予想される相手は、義勇ではないかと疑問が湧いた。
「そういえば、もう一つ、買ってた。」
その言葉に、錆兎の身体が反応する。
なにっ!もう一人、違う男がいるのか!?……それとも、俺に…、
「村田にやるって、言ってたな。」
…村田かぁ!くそ、俺は…村田以下かっ!
錆兎ががっくしと項垂れる。そんな姿の錆兎に気づきもしないで、義勇はその日の出来事の続きを、そのまま淡々と語りだした。
「そのあと、可愛い洋風の甘味処に入ったんだが、アイツ…こんなデカい器に、果物やアイスクリームがたくさん乗った物を頼んで、本当に幸せそうに食べてたな。」
義勇が器の大きさを手で示しながら、説明する姿を見て、錆兎は思った。
……義勇、もうそれ、普通にデートじゃないか?