第4章 素直 前編【※錆兎】
某日・水柱邸にて
錆兎の屋敷の敷地内で、義勇は竹刀を手に錆兎と向き合っていた。
「どうした?いきなり呼び出して、稽古しようなんて。柱は柱同士でするのが通例だろ?」
義勇は、錆兎から目を離さないよう、その動向を探りながら、静かに問いかけた。
「別にそうと決まったわけじゃない。同等の実力を持った奴が、他にいないから、柱同士でするだけだ。義勇、お前なら申し分ない。俺が先に柱になったのだって、運良く十二鬼月に遭遇して、倒した。それだけだ。」
錆兎が竹刀を構え直し、ジリっと義勇ににじり寄る。
「……それにお前とすれば、初心に戻れる。いくぞっ!」
そう言うと錆兎は、義勇に向かって走り出した。
水の呼吸・肆ノ型・打ち潮
荒波が打ち付けるように、重い錆兎の一撃が義勇に迫る。
義勇はそれを待ち構えると、寸前で身体を大きく振りかぶるように捻った。
陸ノ型・ねじれ渦
勢いよく繰り出した竹刀が、錆兎の重い一撃を止めた。その瞬間、激しい水流が渦を巻いて、錆兎に襲いかかる。
錆兎はそれを、空中で身を捻ってかわすと、そのまま横に回転しながら、義勇に斬りつける。
弐ノ型・横水車
流れるような足取りで、錆兎の一撃をかわし、死角に入ると、義勇はその横っ腹目掛けて竹刀を振るう。
錆兎が慌ててその一撃を受け止めた。
そのまま義勇の竹刀を弾くと、後ろに片手を付いて回転しながら、距離を取って着地する。そして一呼吸も置かず、足を強く踏み切ると、義勇目掛けて飛び出した。
「水の呼吸・漆ノ型……」
雫波紋突き・改
静かな湖面に、突然の強雨が降り注ぐように、無数の波紋を描き、錆兎の鋭い刃先が高速で繰り出される。
義勇がヒュゥゥっと呼吸整え、刀を降ろした。
水の呼吸・拾壱ノ型…
「凪」
錆兎の高速で動く無数の突きを、同じく高速で動く、義勇の竹刀が弾き飛ばしていく。
恐らく素人には、捕らえる事は出来ない。ただその場に巻き上がる砂煙だけが、その凄まじさを物語っていた。
そして長い攻防の末、錆兎の突きを弾いた義勇の最後の一撃が、錆兎の首を捉えていた。
当たっていないはずの剣先の、その風圧だけで、錆兎の首に薄っすらと血が滲む。